前二回は無駄にダラダラと長くなってしまったモササウルス類の解説でしたが

今回は本来の目的のブログを書きます。

正直前二回はネット記事や動画サイトによくある、つまらんブログ記事だったかも知れませんが

皆さんのモササウルス類への関心が、より高まった筈だと思う事にします。



あまり一般には知られていませんが

日本でも約50点以上になるモササウルス類の化石が見付かっています。

多くは歯の化石や骨の部分化石ですが

中には属を特定出来るくらいの保存状態の良い頭骨等の標本も発見されています。

また現在迄に北太平洋地域でモササウルス類の化石が産出しているのは

ロシアの歯の標本1点を除けば

日本だけなのです。

化石の産地は、北は北海道(蝦夷層群)から南は九州(姫浦層群)迄

時代はコニアク期(双葉層群)からマーストリヒト期(和泉層群)迄

当時のモササウルス類の北太平洋地域の分布や変遷を知る上では

日本はアジアでは稀有なモササウルス類の化石産地国なのです。

特に北海道と和歌山県では素晴らしい標本が発掘されています。


では、皆さんお待ちかね~。

全国の博物館に展示されているモササウルス(類)の標本を紹介していきましょう。


プラテカルプス・ティンパニティクス

福井県立恐竜博物館

豊橋市自然史博物館

群馬県立自然史博物館

北海道三笠市立博物館

埼玉県おがの化石館

三重県総合博物館みえむ(現在常設展示無し)



各キャストレプリカ標本のオリジナルについてはさっぱり素性が分かりません。


プラテカルプスは

プリオプラテカルプス亜科を代表する全長5~7mの中型のモササウルス類です。

頭骨が前後に短く、歯の形状は薄く鋭利で

現在のホホジロサメの様な獰猛なハンターだったと考えられています。

プラテカルプス属は近年の研究により細分化されており

プレシオプラテカルプス、プラテカルプス、ラトプラテカルプス、プリオプラテカルプスへと

コニアク期からカンパニア期にかけての種の分化が追えます。

これ等最近の研究により、幾つか記載されていたプラテカルプス属は

現在プラテカルプス・ティンパニティクス1種だけが有効とされています。


前回でも解説しましたが、2010年にこのプラテカルプスの化石標本

(ロサンゼルス郡立自然史博物館所蔵LACM 128319)の詳細な研究により

このモササウルス類が、サメや魚竜の様な

三日月型の尾のフルークを持っていた事が明らかとなりました。

またそれに続き、2012年にはシンシナティ大学の小西博士により

この標本の肋骨の特徴が、トカゲよりもクジラに近いという研究報告もされています。

この発見により、プラテカルプス(及びモササウルス類)は

泳ぎの得意な程度のトカゲというイメージから

魚竜やイルカの様な長距離遊泳や高速遊泳が可能な

これ迄考えられていたよりも、遥かに海棲適応進化を果たした生物であったと

その復元が変わりました。


日本でもプリオプラテカルプス亜科のものとされる化石が見付かっています。

多くは歯の化石ですが、北海道のむかわ穂別からは

吻部と頸椎が発掘されており、頸椎化石はプラテカルプス属に似ているのだそうです。



クリダステス・プロパイソン

福島県いわき市石炭化石館

大阪府きしわだ自然資料館

静岡県奇石博物館

北海道沼田町化石体験館

北海道大学総合博物館(産状標本、実物)



北大以外の各標本のオリジナルについては不明。


モササウルス亜科に属するクリダステスは

古くから知られているモササウルス類で

化石の産出量も多く、完全な骨格標本も幾つか発掘されています。

化石は主に北米大陸から発見されており

モササウルス類の中では原始的な形態の種で

サントン期からカンパニア期に棲息していた

体長約2~4m程の小型のモササウルス類です。

ユーラシア大陸でも本属とする化石標本が幾つか報告されています。

2004年にリンドグレン等により報告されたスウェーデン産出の標本や

2015年にはロシアから、2016年にドイツより産出された標本

及びチュービンゲン博物館所蔵の標本等が知られていますが

疑わしいものも多いとされています。

これ迄多くの記載されていた種は現在無効、或いは疑わしいとされており

現状模式種のクリダステス・プロパイソンのみが有効とされています。


歯の化石の同位体分析の研究によると、クリダステスは時に淡水粋或いは汽水粋に侵入していた可能性があるそうです。

彼等骨格を見るとウミトカゲからモササウルス類への進化

つまり、より海棲に適応した生物となっていく様が見てとれます。

またクリダステスの湾曲した前顎歯の生え方が、ヘビ類との類似生を指摘した研究報告もされています。

化石記録から彼等は大型のモササウルス類のティロサウルスに、美味しく食べられていたみたいですね。

(下の画像は北大の産状実物標本)





ティロサウルス

国立科学博物館(ティロサウルス・プロリゲル)

北九州いのちのたび博物館(ティロサウルス・カンザスエンシス)

神奈川県生命の星地球博物館

福井県立恐竜博物館(ティロサウルス・プロリゲル常設展示無し)



科博と福井のキャストレプリカのオリジナルは、カンザス大学自然史博物館所蔵のKUVP 5033通称バンカーと呼ばれる標本です。

バンカーは1911年にカンザス州のニオブララ累層スモーキー・ヒル・チョークより発見された

全長12mオーバーの大型個体の標本で

ブルース(カナダフォッシルディスカバリーセンター所蔵のT·ペンビネンシス)に次ぐ、ティロサウルスの骨格マウントとしては(モササウルス類の標本としても)最大級の標本です。

大きな標本なので、モササウルス類の特徴である口蓋(上顎の奥)に第2の歯と呼ばれる二列の翼状骨歯がよく見えます。

が、日本で展示されている各標本は天井に吊るされているので

見にくかったりします(笑)


上の画像はカンザス大学自然史博物館のマウントですが、キャストレプリカです。

下顎の二重関節もよく見えます。

実物化石標本は、劣化が進み、現在は収蔵庫に保管されていますが

某博士が論文執筆の為、博物館を訪れたら、頭骨が何処に仕舞い込んであるのか

キュレーターも分からなくなっていた。

という逸話があり、アメリカらしいアバウトなお国柄だなあと感じましたね。


ティロサウルスの大きな特徴は、名の由来にもなっている
上顎の先端がロッド状の突起になっている事です。
また上顎骨先端に歯が無い事も他の種との違いです。
小西博士によると、この鼻先の衝角を獲物にぶつけて狩りをしていた可能性が高いのだそうです。

化石の酸素同位体研究により、ティロサウルスは体温を35度前後に保っていた
内温能力を有した中温生の海棲爬虫類だったと考えられています。
また印象化石から、体表には3㎜ほどの細かい菱形の鱗で覆われていた事が分かっています。

ティロサウルス亜科は吻部と尾が長く、四肢の鰭が細長くほぼ同じ長さで、骨化が弱めです。
このグループには旧ハイノサウルス(現在シノニム)が含まれますが、ティロサウルス・プロリゲルの脊椎が35個なのに対し、旧ハイノサウルス(現ティロサウルス・ベルナルディ)の脊椎は45個もあります。
どうやらモササウルス類というのは、種のレベルで椎骨の数に差がある様です。
ティロサウルス属も御多分に洩れず、記載種の統合や無効化がおこなわれており
現状プロリゲル、サスカチュワンエンシス等6種程が有効と考えられています。
かつてのティロサウルス・カンザスエンシスは現在
ティロサウルス・ネパエオリクスの幼体であるとの見方がされています。



上の画像は科博のバンカー標本のレプリカです。
横には古鯨類のバシロサウルスの骨格標本が並べて吊るされています。
海棲適応の収斂進化を観せる展示です。
ティロサウルスは後期白亜紀サントン期後半からカンパニア期の中頃迄の
約1000万年もの間、海に生息していました。
彼等の体は完全に水棲生物に進化しており
もしも、もっとずっと長く彼等が生き延びていたら
彼等もクジラの様に後脚の鰭が退化していたのかも知れません。


北海道蝦夷層群のカンパニア期中頃の階層から
中型のティロサウルス属と思われる化石(HMG-371標本)が発掘されています。
しかしながら頬骨や下顎後半部はティロサウルス属とは似ていないので
未発見のティロサウルス亜科の新種ではないかとも見られています。


オマケ
何なのかよく判らないモササウルス類のレプリカ骨格標本
神奈川県生命の星地球博物館(ティロサウルスの後方に吊るされてる)
兵庫県玄武洞ミュージアム(クリダステスの産状?)



なんだよ、殆んどレプリカばっかじゃねえか
もっと本物は無いのかよ?
と思ってるそこのあなた
ありますよちゃんと
日本で新種記載された標本や、日本産出の全身骨格標本が

しかし文字数制限により(嘘)
残念ながら次回に持ち越します。
ではまた