今回もラプトルについてあれこれと

さて、前回の続きになります。
恐竜の脳の復元は出来ないのだろうか?
化石となって残るのは基本的に骨だけです。
いくら保存率の高い頭骨化石が見付かっても
脳などの軟組織が化石となって残る事など、殆んどありません。
(例外はありますが、その話を始めると長くなるので、今回は割愛します)
しかし、脳函という頭骨の一部分から
ある程度、恐竜の脳を復元する事が可能なのです。
更に近年では、CTスキャナーを使う事で、より詳細に脳函を調べる事も出来、
それを基に、コンピューター上で恐竜の脳の立体復元をする事も
出来るようになりました。
その技術を使い、恐竜の大きな分類群
即ち、獣脚類、竜脚類、鳥脚類、角竜、厚頭竜、剣竜、曲竜
といった恐竜の脳の復元が行われるようになりました。
サンプルはまだまだ少ないですが、しかしある程度の各分類群の
恐竜の脳の傾向が、朧気ながら推定出来るようになりました。
例えば、剣竜ステゴサウルス
昔の恐竜本だと、脳の大きさは胡桃くらいとか書かれていて
恐竜は図体がデカいだけの低能な爬虫類の代表格のような扱いでしたが
脳函から正確に復元されたステゴサウルスの脳のエンドキャストの大きさは
胡桃よりも数倍大きく、だいたい鶏の卵くらいの大きさであった事が判りました。
といっても彼等の脳の機能では、本能的な行動しか出来ないそうです。
つまり平均的な爬虫類のレベルでしかなかったという事ですね。
まあそんな感じで、科学的エビデンスによる恐竜の脳の復元が可能となりました。
ではラプトル達の脳はどんなものだったのでしょう?
サンプルは少ないものの、ドロマエオサウルス類とトロオドン類の
脳のエンドキャスト復元も行われています。
その結果は驚くべきもので、現生の爬虫類のレベルを大きく上回るものでした。

脳の大きさを表すのにRQ数値というのがあります。
これは脳の大きさと体の大きさとを比較した比率として表します。
単純に脳の大きさを比べても、機能とは関係無いからです。
例えばゾウの脳は我々人類より大きいですが、彼等には我々程の知性はありません。
クジラはイルカより大きな脳を持ちますが、イルカよりクジラのほうが知能が高いという事もありません。
ですから、体重に対する脳の大きさを指針とする考え方ですね。
恐竜の場合、この脳化指数をREQ(Reptile Encephalization Quotient)として表します。
通常は数値1.0を、爬虫類の脳化指数平均値とします。
トロオドン類のステノニコサウルスの数値は
恐竜の中でもトップレベルで、REQ値は約6.06となりました。
これは現在の爬虫類のレベルの上限値を超えており
鳥類ではエミュー等に匹敵します。
データが有る中で最高値となったのはドロマエオサウルス類のバンビラプトルで
REQ値が約13.0
これは鳥類ではケープペンギンとほぼ同等の脳化指数値です。
また彼等の脳の形状は、カルノサウリアやティラノサウロイドとは違い
鳥類に近く、知性を司るとされる大脳も大きく発達していました。

脳化指数は小型の生物のほうが比率が高くなる傾向があるので
バンビラプトルからステノニコサウルスの中間値が
パラヴェス類の平均値と考えても差し支えは無いでしょう。
専門家によるとこの数値なら社会性の有る行動を取っていた可能性は高く
群れ行動、統率の取れた狩りを行う事も可能であっただろう。
との事です。

しかしながら、ヨウムやハシボソカラスの脳化指数には全く及ばず
ルリコンゴウインコ(REQ約31.0)には遠く及びません。
当然ながら、類人猿や鯨類よりも低い数値でしかありません。
やはり、映画での彼等の知能というのは
ファンタジーでしか無いという事ですね。

という感じで閉めようかと下書きをしていたのですが
面白い研究報告が入って来ました。
以下その単報のコピペです。
米ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)の研究者はこのほど、恐竜の大脳皮質のニューロン密度を調べた研究で、ティラノサウルスが現代のヒヒと同等の知能を持っていた可能性を発見しました。
この傾向はTレックス以外にもアロサウルなどを含む獣脚類に共通して見られ、これまで考えられていた以上にこの肉食恐竜のグループの頭が良かったことを示唆しています。
研究主任で神経解剖学者のスザーナ・エルクラーノ=アウゼル(Suzana Herculano-Houzel)氏は「一部の賢い動物と同じように道具を使えた可能性もある」と述べました。
研究の詳細は、2023年1月5日付で科学雑誌『Journal of Comparative Neurology』に掲載されています。
研究者はこれまで、恐竜の知能を示す指標として「脳化指数(encephalization quotient:EQ)」を用いてきました。
これは体重に対して脳がどれだけ重いかで知能レベルを推測するものです。
たとえば、ヒトのEQは7.8であり、警察犬や介助犬としても活躍するシェパードは3.1、対してティラノサウルスのEQは約2.4と算出されています。
しかし、EQが実際の知能と一致するとは言えません。
専門家の中には「多くの動物では、体の大きさと脳の大きさは別々に進化するため、EQが正確な知能を示すとは言い難い」という声もあります。
特に、恐竜のような絶滅した種を対象とする場合は注意が必要です。
そこでアウゼル氏は、より信頼できる指標を求めて「大脳皮質のニューロン密度」に注目しました。
大脳皮質は、大脳の表面に広がるシワシワの部分を指し、ほとんどの知的タスクに関わる重要な脳領域です。
専門家は、脳全体のサイズではなく、大脳皮質にどれだけニューロン(神経細胞)が密に詰まっているかを知ることで、その生物の知能レベルが推測できると考えています。
たとえば、現代の鳥類は脳そのものは非常に小さいですが、ニューロン密度が高いため、極めて高い知能を持っているのです。
小さいながらに非常に賢いことで知られるカラスはその代表的な例であり、ニューロン密度が非常に高いことが報告されています。(JCN,2022)
しかし、恐竜の脳はすでにこの世に存在しないため、ニューロン密度を直接的に測ることはできません。
ところが昨年、別の研究チームが、鳥類および哺乳類の大脳皮質におけるニューロン密度が、爬虫類と比較して非常に高いことを示す大規模データを発表しました(PNAS, 2022)。
現代の鳥類はティラノサウルスを含む絶滅した獣脚類の子孫です。
このことからアウゼル氏は、進化の系統上にある複数のグループのニューロン密度を調べたこの大規模なデータをもとに比較解剖学の手法を用いれば、恐竜の大脳皮質のニューロン密度を推定できるのではないかと考えました。
鳥類と哺乳類の大脳皮質におけるニューロン密度の高さを示す図 / Credit: Kristina Kverková et al., PNAS(2022)そこで、この大規模データと恐竜の頭蓋骨をCTスキャンして得た推定脳量を組み合わせて、脳量と大脳皮質のおおよそのニューロン密度を関連づける方程式を作成。
その結果、肉食恐竜のグループである獣脚類の脳は、現代の鳥類の脳とほぼ同じ規則に従っていることが判明しました。
さらに、ブラキオサウルスのような草食の竜脚類の脳は、現代の爬虫類にかなり似ていることが示されています。
次にアウゼル氏は、この方程式をもとに様々な恐竜種におけるニューロン密度を算出。
すると、約7000万年前に今日のモンゴルに生息していた肉食恐竜のアリオラムスは、大脳皮質に10億個を超えるニューロンを持っており、現生のオマキザルと同等であることが分かりました。
獣脚類の一種「アリオラムス」の復元図(体長6mほど) / Credit: ja.wikipediaオマキザルは丸い適切な形と強度を持った石を選び出して、ナッツを割るのに使用することが知られており、道具を使うことが可能な知性を持っています。
現代のオマキザルは石を使ってナッツを割る知性を持っている / Credit:Tiago Falótico_Scientists prove that tools attributed to ancient humans were made by ancestors of capuchin monkeys(2022 Consejo Nacional de Investigaciones Científicas y Técnicas)そして、ティラノサウルスは脳の重さが3分の1キロ強しかないにもかかわらず、ニューロン数は33億個と推定され、現代のヒヒに匹敵することが明らかになったのです。
(ちなみに、ヒトの大脳皮質のニューロン数は約160億、チンパンジーは約80億、ニホンザルは約50億)
この点から、ティラノサウルスは強靭な肉体だけでなく、ヒヒ並みの知能を持っていた可能性が支持されました。
またアウゼル氏は、新たに判明したニューロン密度の推定値と先行研究の生態に関する知見を組み合わせることで、ティラノサウルスが性的に成熟するまでに4〜5年かかり、最大49歳まで生きることができたと予測しています。
これも現代のヒヒと一致する数字です。
以上の結果が正しければ、「肉食恐竜の一部は、カラスが棒を使って昆虫をほじくり出すように、何らかの道具を使っていた可能性がある」と同氏は指摘します。
獣脚類のメンバーと子孫 / Credit: ja.wikipediaただし今回の主張を裏付けるには、もっと多くの物的証拠が必要であるのは確かです。
たとえ大脳皮質のニューロン密度が推定できたとしても、恐竜の知能のすべてを語ることはできません。
なぜなら実際に表現される賢さにはニューロンの数だけでなく、その接続の仕方など、大脳生理学のあらゆる側面が関係するからです。
それでもアウゼル氏は、この知見が恐竜の賢さをよりよく理解するための大きな一歩となることに期待しています。
「こうした研究分野は、ティラノサウルスのような驚くべき生物に何が可能で、何が不可能だったかについて私たちに多くのことを教えてくれるでしょう」
何とも夢の有る研究報告ではありますが、科学の学説には反証が付きものです。
この仮説が妥当なものかどうかは
世界中の多くの古生物学者達の厳しい反証に耐え抜かねばなりません。
鳥は恐竜そのものである。
という仮説と同じくね。
あらゆる反証を潜り抜けた仮説だけが、広く定説として認められるのです。
さてラプトル達の知能レベルは実際はどれ程だったのでしょうか?
結論を出すには、まだまだ時間が必要なようです。
多分続く