大正時代のアンソニー型カメラ⑤ | 四畳半カメラ大系

四畳半カメラ大系

自由気ままなカメラブログ
記事はテーマ別にまとめてあるので気になる記事はそこからご覧頂けると幸いです。

9.蛇腹セルフビルド

 

 経年劣化で破れた蛇腹だがこれは

 

蛇腹カメラの宿命となる

 

 大抵は少し穴が空いているか破れてる。普通に考えて何十年も昔の革製品は持たない。

 

 蛇腹カメラと言えばフォールディングカメラは中古市場でよく見かける。特に戦後の国産スプリングカメラは身近で手頃だろう。ただこの辺の革の質は良くないので破れていることが多いと思われる。

 

 なので蛇腹を自作するユーザーは多い訳だが、自分もその一人となる。

 

現在でも蛇腹を注文可能な製作所はあると思われるが

 

そんな予算は無い。

 

金の無い学生ぞ?

 

さ、作ろ。

 

まず初めに蛇腹の縦横と段を計測して

カメラ用蛇腹の作図プログラム

に数値を入れて計算。
 
だいたい縦横25センチの〜
山と谷がそれぞれ3センチくらい〜
段が…………
 
...ん?
 
デカい!
 

 入力してから気づいたが8×10の蛇腹は恐ろしく大きい。展開図にすると面積が広いのだ。しかも組立暗箱とは異なり写場暗箱の蛇腹は四角錐の形状ではなく長方形。A4の紙ではとても収まらない。

 

 仕方ないのでA4を何枚も印刷してそれをテープで繋ぎ合わせて型紙を作成した。その面積が入るシープスカイバー(羊の革)・ラシャ紙・黒布の3つの素材を購入した。蛇腹の素材を選ぶコツはどれだけ薄い素材を買えるかなので、素材を買う時は是非薄さに注目しよう。

 

蛇腹実物。1枚目は表から。二枚目は裏から見た時

 

 ラシャ紙に型紙を転写した後に、革をスプレー糊で貼り合わせる(転写してないほう)。そして軽く折り畳むが、ここで問題が発生した。

 

畳むのめんどくせ~!

 

仕方ないので学友二人を呼びつけ、私が松の屋で一時間程度ご飯を食べている間に全段畳んで貰った。

 

学友「二度と呼ぶなよカス」

 

 大学で友達は大切だ。レポートの写し・出席・授業情報全ての面で必要で、余程己が有能でない限り友達は必ず作るべきである。特に同じ学科の人間と仲良くするのは肝。

 

これから進学を考える高校生は上記を丹念に覚えておこう。

 

そうしてできた蛇腹に布を張り合わせて完成となる。グダグダだがこの際妥協するしかあるまい。ラシャ紙が蛇腹の芯となる部分だが、本来であれば角の部分に紙は要らない。今更遅いのでそのまま完成させた。

 

 

ヨレヨレだが遮光さえ確かなら問題ない

 

 蛇腹はかなり丈夫に仕上がった。重みで中心が沈むかと心配したがそんなことはなかった。

 

ここで問題が発生した。

 

なんと素材が厚いと暗箱を畳めなくなるのだ。

 

 個々の素材自体はある程度薄いが重ねて段の数が増える分蛇腹は分厚くなる。なので可能な限り極薄の素材を選ぼう。

 

 

こんな感じで畳めなくなるがそもそもアンソニー型で畳む必要はまずない。よってモーマンタイ

 

これから蛇腹を作る人はこのブログの犠牲と他の人の記事を元に注意して製作して頂きたい。

 

 自分のアンソニー型の蛇腹は筐体の中に木枠が入っており、そこに蛇腹と張り合わせられていた。なので木枠を取り外したら蛇腹を交換出来たのだが、木枠が無い機種も多いようである。

 

10.アンソニー型で使われるシャッター

 

大判カメラのシャッターは複数ある。例えば

 

レンズシャッター

ソロントン式シャッター

ローシャッター

サイレントシャッター

 

…などが挙げられる。この中で最も使われているのはレンズシャッターだろう。

 

レンズシャッターは二眼レフカメラやスプリングカメラでも多用されているレンズとシャッターが一体になった代物だ。

 

大判カメラで使用されるレンズシャッターは中判用より大型で

 

35mm用のカメラが00番

120mm用(中判)のカメラが0番

それ以上のサイズ(大判)で1番/3番/5番

 

と順にレンズ含め大きくなってくる。

 

大判カメラは一般的に0番/1番/3番のどれかのサイズが使われていることになる。

(5番は相当デカいうえに珍品らしい)

 

しかしこの写場暗箱のレンズはシャッターが無い

 

バレルレンズ(普通鏡胴)

 

だ。ではシャッターはどこ?

 

  写場暗箱は他の大判カメラとは異なる独自の大型シャッターが搭載されていることが多い。

 

その1つがローシャッターだ。

 

ローシャッター(後面)

 

 

ローシャッター(正面)

 

レンズ後方、筐体内部に設置されている。

 

 ゴム球を握って空気をピストンに送り込んで三枚の羽根を開放させるシステムなので、握り具合による手動で露光加減を決められる。つまりB(バルブ)撮影しかできないシャッターだ

 

こんな感じのゴム球を握るシーンを君は見たことがあるか?

 

 感光度が低い乾板時代のカメラは長時間の露光を求められる撮影方法が多く、こうしたややアバウトなシステムで当時問題無かったとされる。三吋(インチ)や五吋(インチ)などサイズ別にあった。

 

 他にもサイレントシャッター(または無声シャッター)があり、こちらは二枚の羽根(扉の様なフラップ)を同じく空気で開放する方式だ。名前の通り音が発生しないシャッターで被写体が子供や神経質な人だったりする時に活躍できたらしい。

 

ただあまりこの方式は見かけない気がする。ウケなかったかもしれない。

 

 またシャッターを搭載していない写場暗箱も存在する

 

レンズに蓋をかぶせるだけのかなり古いカメラ(乾板以前など)か

 

上記のソロントン式シャッターかレンズシャッターを使う前提のタイプもある。組立暗箱はソロントン式が多いと思われる。

 

 ローシャッターは1960年代前半では既に時代遅れの代物になっている。シャッターのみならず感光材料とレンズの性能が総合的に改善された結果だろう。

 

 

カメラにあってはならない穴

 

 自分のローシャッターはフラッシュ用の配線が引かれており、筐体に配線用の穴が開けられていた。ちなみにシャッター穴の直径は丁度9cmであった。インチだと3.5インチくらいだ。

 

  フラッシュなんぞ使わないのでシャッターから配線は撤廃して穴を塞ぐ。昔は閃光粉なんかが使われたが、昭和時代のどこかで閃光電球(フラッシュバルブ)を使えるように改造したと思われる。

 

ピストンに異常は無かったので

 

 

 エアシャッター用のゴム球付きチューブを買う。チューブはシャッター用の穴に入らないので全部捨てる。

 

(ちなみにブロワーはゴム球として流用出来ない)

 

 そしてホームセンターに行って魚用の太いエアチューブを買ってそれにゴム球を接続する。チューブをピストン部とシャッター用の穴に嵌めるだけで使えるようになる。

 

 

つまり加工してポン付け

 

さて蛇腹とシャッターさえ直ってしまえば写場暗箱は使える状態となる。

 

次回カメラ全体の用語解説と撮影編

 

⑥に続く  ↓おまけ

 

画像元:写真銘鑑:附・写真機及写真鏡玉選択

 

大正14年におけるXenar36cmF4.5の価格は350円であった。