濡れていた。
その漆黒の黒髪がーーー。
ゆるいうねりのあったはずの髪が
濡れると真っ直ぐになる。
チェ・ヨンは
一人、あの大好きな浴槽に
漬かっていた。
What about us?
唇から
そのような言葉が
微かに溢れる。
「俺たちはどこに行くのか」
「どこへ行けばいいのか」
「どう行けば…よいのか……」
そんな言葉を
何度も繰り返す。
大きく脈打つ
艶かかな皮膚の下で。
時に
ぷるんとした唇の端から
溢し落としながら
繰り返す。
すると
先ほどまで静寂しかなかったそこが
急にざわめいた。
鞭を打つかのように
幹を打ち合う樹々。
ざっと仰ぐ
チェ・ヨン。
光が宿る。
力のなかった、その瞳に。
今まで見たことのないような
そんな螺旋を描きながら
一つ
一つ
そして
また
一つ
落ちてくる。
濡れる。
髪が
打つ。
その瞳を
しかし
瞬き一つしない
チェ・ヨン。
法則のない滴の
予測のできない滴の
まだらに光る滴の
自由な滴の
チェ・ヨンには経験のない
そんな予測不能な動きをする滴たちを
しばらく見つめると
すっとたおやかな腕を
差し出した。
湯の波が静かな円を描きながら
浴槽の向こうへと渡って行く。
その男の細すぎる足には似合わない
隆々とした腕のそこらじゅうに
湯の滴を弾きながら
柔らかなしなりをもって
天へと突き出した。
「くれ」
「その法則のない自由を」
「俺に」