「どのくらい探せば

アノヒトに会えるのだろう」

 

「どのくらいの刻を一人で過ごせば

ともにまた

歩めるのだろう」

 

 

「どのくらい刻を重ねれば……」

 

「どのくらい、頑張れば…………」

 

「どのくらい我慢、すれば………………」

 

「どのくらい、耐えれば………………」

 

「どのくらい……」

 

「どのくらい………………」

 

「どのくらい…………………」

 

 

 

カサつき血が通ってるとは到底思えないような

白さを通り越し蒼白くなってしまった

イ・ゴンの頬を

 

ぽつっ

 

と、伝った。

 

 

その男の雫が

オトもなく

もどかしそうに

伝い降りる。

 

男の頬を。

 

 

だが、ソノシズクは

その男の求めた女の首筋に

伝い流れた

あの刻のようになることはなく

 

重なり合った二人の

男の頬からその女の頬へ

首筋へ

その下の胸へ

熱いそこを冷たく湿らせることは

なく

 

男の頬の途中で

はたと消えて

無くなった。

 

 

失せたのではない。

 

吸い込まれたのだ。

その男の中にーーーーー。

 

 

 

 

一人見上げるイ・ゴン。

 

下を向いてばかりいた男だったが

 

「今日は・・・・」

 

そう想い

 

上を

空を

茜色に染まる宙を

我慢して

下唇を人にわからないように

唇の中で噛み締め

あおいだ。

 

そうしなければ

こぼれ落ちそうで。

 

自分の、ものが。

自分の、すべてが。

自分の、今まで必死に我慢してきたものが

すべて吐露されてしまいそうで

 

慌てて上を振り仰いだ。

 

 

冷静寡黙で

本当はどこを見ているのか

分からないような瞳を

いつもしている男。

 

時におどけてみても

その水晶の奥には

笑っていない光るカタチが

いつもある。

 

 

そんな男が

雑踏の中で

 

これでもかというように

これ以上は首が曲がらない

それくらいまでに

仰ぎ、見つめている。

 

 

 

そうしないと

吐き出してしまいそうで

 

崩れ落ち

その冷たい土の中に

自分が溶けてなくなってしまいそうで。

 

怖かった。

 

 

「No more cry」

 

そう、決めたのに。

 

 

あの時、二人で歩いた一本道で

月を見ながら

そう、決めたのに。

 

もう、これを最期に

このような姿は見せない。

 

一人でも、見せない。

自分にも、見せない。

 

そう決めたのに・・・

 

もろくも崩れそうになっていた。

 

 

「はあっ」

 

 

強い息を一つ

 

胸の上から吐き出す。

 

もう、腹の底からは

吐き出すことができなくなっていた。

 

 

腹の底には

想いがつまりすぎていて

そこを行き来できる場所など

少しも

残されていない。

 

その胸の上も埋まってしまったら

その先は喉しかない。

 

あの喉を

上下に大きく

動かすしか

 

ない。

 

 

そうなってしまったら・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「あのヒトは・・・」

 

「見ているだろうか」

 

「あの夕陽を」

 

 

「アノヒトは」

 

「想っているだろうか」

 

「私の………………ことを」

 

 

 

「アノヒトは・・・・・」

 

 

 

その雑踏は、イ・ゴンの刻ではない。

誰もイ・ゴンのことを知らない。

 

自分が気にしているだけで

人はだれもこの男のことを

見てもいない。

 

「誰も」

 

「見てはいない」

 

 

そう想った瞬間

 

イ・ゴンは

 

「アイシテル」

 

そう、一言

吐き捨てるように言うと

 

自分の体を

その男の躰の中で少しだけ盛り上がる

その腕で・・・・

 

必死に抱きしめ

 

もうほとんど残っていない

ソレを

掻き集めるように

確かめた。

 

 

ーアノヒトの

ヌクモリをー

 

 

 

 

「どうして

こうなってしまったのだろう」

 

「どうして

違う道なのだろう」

 

「どうして

一つではないのだろう」

 

 

「どうして

また私は

アノヒトのいない夜を………

一人過ごさねばならないのだろう」

 

 

「どうして………………………………」

 

 

 

 

 

「どうして………………」

 

 

「どうしてっ!」

 

 

 

 

「アノヒトのいない夜は

もう、過ごせない」

 

 

「過ごすことなど、できない」

 

 

「もう………………………………………」

 

 

 

「私には」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PS

チェ・ヨンみたいかな。笑

まあ、どの男も

違うようで

似てますから。