「初めて………」

 

「あの………」

 

「刻………」

 

「私…………」

 

 

「わた……し………」

 

 

 

「………………………………………」

 

 

 

 

「なぜ……流すのです」

 

「なぜ……」

 

「そのように」

 

 

 

「流すな」

 

「流さないで」

「お願いだから」

 

 

「俺も…泣きたくなるでは……

ないか」

 

「俺も………」

 

 

「もうよいから」

 

「俺の……」

 

「胸……の中へ……」

 

「来い」

 

 

「我慢などしなくてよいから」

 

「来い」

 

「来るのだ」

 

 

 

 

「いや」

 

「その指」

 

「いらない」

 

 

「いいから」

 

「このままでいさせて」

 

「お願い」

 

「お願いだから」

 

 

 

 

 

「どうして」

 

「どうしてそのようなことを………

言うのです」

 

 

「俺が

すくい上げてやるから」

 

 

「俺の

この指で」

 

 

「俺の……

頬で………」

 

「なぞりたいのだ」

 

 

「なぞって…

やり…たい…のだ……」

 

 

 

「俺が

このようなことを

口にすることが

どれだけ

大変なことなのか」

 

 

「あなたは………」

 

 

 

「お前は」

 

「分かっているだろう?」

 

 

 

 

「だからこれ以上

困らせるな」

 

 

「来い」

 

「来いと言っているだろう?」

 

 

 

 

 

「いいから

聞いて」

 

「お願い」

 

 

「お願いだから」

 

 

「おね…が……い……」

 

 

 

 

「今だけは」

 

 

 

「おね……が……い……」

 

 

 

 

 

「そのままで」

 

「そこで

その背中

向けたまま」

 

 

「そのままで」

 

「聞いて」

 

 

「私の」

 

「あの刻の

私の」

 

 

 

「あの」

 

「三秒を」

 

 

「そして」

 

 

「その後の

一秒を」

 

 

「お願い…………」

 

「いいでしょう?」

 

 

「たまには

私の言うこと」

 

 

「聞いて」

 

 

 

 

「もうすぐ……」

 

「わたし………」

 

 

「んんん」

 

「もうす…ぐ……」

 

 

「また、あの夜が

来るんでしょう?」

 

「あの、七夕の夜が

来るんでしょう?」

 

 

「私たちの」

 

「あの」

 

「夜が」

 

 

「その前に

伝えて

おきたいの」

 

「どうしても」

 

 

 

「だって

あなた」

 

 

「忙しくて

全然

一緒にいられなくて」

 

「私」

 

「もう」

 

 

 

「だめ…に……」

 

「なり……そう……」

 

 

「だから

伝えたいの」

 

 

「あなたに

あの刻の」

 

 

「私の

三秒を」

 

 

 

「その先の」

 

 

「一秒を………」

 

 

「振り向かないで」

 

 

「お願い」

 

「お願いだから」

 

 

 

「振り向いたら」

 

 

「あなたの瞳が

私を

見たら」

 

 

 

「私」

 

 

「もう」

 

「ムリ」

 

「だから」

 

 

「息が」

 

「できない」

 

 

「から………」

 

 

 

 

「お願い

そのままで」

 

 

「お願い」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

もう

若くないのに

 

あの刻

初めて知ってしまった

恋。

 

初めて知ってしまった

本当の

男。

 

それが

なのだと

 

私の

最初で最後の

なんだと

 

 

知ってしまった

あの刻。

 

初めて知った

あなた。

 

 

ヨン

 

チェ・ヨン

 

ヨン

 

 

ヨン

 

 

 

ヨン

 

ヨン

 

 

ヨンっ

 

 

 

ヨン

 

 

 

 

ヨン………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

なぜ

出会ってしまったの。

 

 

なぜ

知ってしまったの。

 

 

なぜ

来たの

 

あそこに。

 

 

なぜ

私を

捉まえたの。

 

 

なぜ

どうして

 

私………………。

 

 

 

こんなに毎晩

流さなきゃ

ならないの。

 

 

この

私の

 

もう……………

 

出ない。

 

ない。

 

 

躰のどこにも

ない。

 

 

もう流す涙なんて

どこにも

ない。

 

 

 

毎夜

毎夜

私の側にいない

あなたを

想って

 

あなたの身に

何かあったんじゃないかと

 

心臓が

ずきっと

切り刻まれる度に

 

そう想って

 

 

怖くて。

 

恐怖で

 

真っ暗で。

 

 

突き落とされて。

 

 

 

オトのない

この世界。

 

灯りのない

この世界。

 

 

あなたしか

いないのに

私。

 

 

あなたのためだけに

いるのに。

 

 

 

あなたの

肌を

 

いつも

 

カンジテ

 

いたい・・・の・・に・・・。

 

 

 

もう

 

ない。

 

 

 

濡らせる

布が。

 

 

 

よじって

よじれて

ぐちゃぐちゃになって

 

まみれて

 

躰中。

 

 

 

私の

涙で。

 

 

私の

 

涙・・で・・。

 

 

 

 

 

でも

流さないと

どうにかなりそうで

 

 

吐きださないと

どうにかなっちゃいそうで

 

 

朝を迎えられない

から・・・・

 

 

向かえないから

 

私の

いるべき場所に。

 

 

私が

診るべき場所に。

 

 

行かなくちゃいけない。

 

この高麗の人たちを

助けなくちゃ

 

いけない。

 

 

 

 

あなたのために。

 

 

あなただけのために。

 

 

 

 

 

だから

夜は

 

 

一人の

夜は

 

泣いて

 

泣いて

 

 

 

泣いて

 

 

 

泣いて

 

 

 

 

 

こんなに

 

泣いて

泣ききって。

 

 

 

 

 

もう私の躰には

ないはずなのに

 

 

でも

溢れ出て

 

私の

愛が。

 

 

 

あなたを

想う

愛が。

 

 

会わなきゃ

あなたと

出会わなきゃ

 

こんな想い

しなくてすんだのに

 

こんな

辛い想い

しなくて

すんだのに

 

 

あの世界で

なんでもある

あの世界で

 

 

ほどほどに

生きてられる

あの世界で

 

 

平凡に

ただ忙しく

ただ流れるだけの

日々を

過ごせばよかったのに。

 

 

肩肘張って

男たちに揉まれて

でもたまには

喜ばれて

 

それが

嬉しくて

 

ただそんな一瞬が

生き甲斐で。

 

 

そんな

日々を送っていれば

人生

 

やり過ごすことが

できたのに。

 

ただ流れて

流れるままに

 

日々

ほどほどに

安全な中でだけ

生きて

 

 

それで事は

すんだ

はずなのに。

 

 

私なんて

誰も気にしない。

 

私の存在なんて

どこにもない。

 

 

 

でも

生きてられる

 

そんな世界で

いられたのに。

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

う・・そ・・。

 

 

 

こんなの

 

うそ・・・。

 

 

 

 

 

ほんとは

待ってたの。

 

あなたを。

 

 

あなたが

迎えに

来るのを。

 

 

私を。

 

 

 

 

 

だから

あの

三秒。

 

 

私の世界は止まって

 

あなたの

あの瞳に

縛られて。

 

 

 

そして

その後の

一秒。

 

 

誘った。

 

 

あなたを。

 

 

 

 

私の。

 

瞳で。

 

 

 

 

「まって・・た・・・」

 

 

「き・・て・・・」

 

 

 

「わたしを・・・」

 

 

「だ・・・・い・・ ・て・・」

 

 

 

 

 

 

 

逸らすことなんて

できなかった。

 

 

あの刻の

あの

 

三秒。

 

 

 

ねえ

分かってる?

 

 

 

私の

あの

三秒…。

 

 

 

そして

 

 

その後の

一秒を。

 

 

 

私の世界が

すべて

止まってしまった

あの、刻。

 

 

私の瞳。

 

誰にも

縛られたことなんて

なかったのに。

 

 

これまで

一度も

 

なかったのに。

 

 

私の瞳は

いつも自由で

 

好きなところを

見てれば

いいだけだったのに。

 

 

 

あの刻から

私は

 

 

あなたの瞳に

縛られて

 

 

躰中を

縛られて

 

 

ハジメテ

 

ダッタ

 

ノ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分かってる。

 

分かってるから。

 

 

 

だから

俺は

この世に

生まれてきたのだ。

 

生を

受けたのだ。

 

 

だから

これまで

生きる意味などない

この世界で

 

我慢し

生きてきたのだ。

 

 

お前を

探し

求めて

きたのだ。

 

 

 

離すわけが

ないだろう?

 

俺が。

 

 

お前を

捉まえるために

 

ずっと

探し求め

 

ずっと

この場所で

 

待って。

 

 

ずっと

 

ずっと

 

 

 

ずっと・・・・・・

 

 

 

待って………。

 

 

求めすぎて

何度

湖底へ

潜ったか。

 

 

何度

あの場所へ

行けたらと

願ったか。

 

 

だから

分かったから

 

お前の気持ち

分かったから

 

俺のもとへ

来い。

 

 

 

俺はお前を

離さない。

 

 

お前が

行こうとしても

 

絶対に

離さない。

 

 

絶対に

離して

なるものか。

 

 

 

 

 

大丈夫。

 

大丈夫だから。

 

 

もう、泣くな。

 

 

泣くな。

 

 

 

俺の胸へ

来い。

 

 

お前だけの

この胸へ

 

来い。

 

 

 

愛して………

やるから

 

お前の髄まで。

 

 

 

愛して………

欲しいから

  

 

俺の………

髄まで。

 

 

 

俺の

 

震わせろ

 

震わせて………

 

くれ。

 

 

 

だから

もう

 

泣くな。

 

 

もう………。

 

 

 

 

お前のために

俺は

生きているのだ。

 

 

だから

お前も

生きるのだ

俺のために。

 

 

生き抜くのだ

二人で。

 

 

この先

永遠に。

 

 

何が

あっても

 

二人で

 

生き抜くのだ。

 

 

 

 

 


For You


 



2018年9月

の刻の

チェ・ヨン