あの白い砂を踏みしめながら

 

一歩。

そしてまた一歩。

 

チェ・ヨンは、これまでの

しまい込んだのに止められず

果てはあふれ出してしまった想いを

乗り越えながら

歩いていく。

 

ようやくここまで来た二人。

 

だが、結局

どうしようもなく

同じことを繰り返してしまう、二人。

 

 

「俺たち………」

 

チェ・ヨンの上擦り掠れたままのそれが

腕に抱きかかえるウンスへ

ぽつりと

落ちた。

 

「Rain」

 

とさえだけ言えば

そのせいにできたのだ。

チェ・ヨンには。

 

そして

ウンスの好きな

 

「Rain」

 

は、そんなチェ・ヨンの

苦しく辛い想いを吐き出させるための

言葉でもあった。

 

 

互いが互いを想い合い

過ぎて絡まりどうすればよいのか

いく先すらも分からなくなり

堂々巡りを繰り返す。

 

闇の中へ

堕ちてしまう。

 

ついには堪えきれず

「二人で異なる世界へ」

そう願っても叶うわけなどなく

いや、結局そうすることできずに

二人、互いの手を取り合う。

 

 

唇に押し当て

 

ただ、

 

ただ……

 

打ち震える。

 

 

そうして

今年も暮れて行き

新しい年がやってくる。

 

 

時が迫り来ようとしているのに

 

「イムジャ……」

 

チェ・ヨンのその後の言葉が

先程までのように

流暢に続かない。

 

 

「男である俺が」

 

「年下であっても、俺が」

 

「イムジャを……」

 

 

チェ・ヨンのいつもの隠れた想い。

 

「年上だったら、もっとできるのに」

 

その想いは、ウンスの

 

「年下だったら、もっとできるのに」

 

という想いを、知らない。

 

 

「イムジャ……」

 

何度目かのその言葉を繰り返し

ようやくチェ・ヨンは

二人のあの場所へとたどり着いた。

 

 

桜の木が奏でる音を聴きながら

そっとそこに降ろし

乱れた髪を

すぅっと撫でる。

 

滑らかな細い指で。

 

柘植の櫛よりも

滑らかに、撫でてやる。

 

 

「イムジャ……」

 

 

何度目の言葉だろう。

チェ・ヨンの唯一のその言葉で

自分の女を、そう呼ぶ。

 

 

「イム…ジャ………」

 

 

そうもう一度呼び、

 

撫でるその指をすぅっと止めると

頬を寄せ

その髪に

チェ・ヨンの唇を

紛らせた。

 

 

触れて……しま…う……。

 

 

 

自分の愛しすぎてしまった女の躰に

自分のものにそのすべてをしてしまいたい

その一つの髪に

 

 

触れて……

 

しまっ……

 

た…………。

 

 

 

瞬間、

 

チェ・ヨンの腕が

その女の躰を

縛り上げるまでに

 

骨が軋むように

 

狂ったように

 

抱きしめ…………。

 

 

自分の頬まで持ち上げると

 

あの唇を………………。

 

 

 

「イム………」

 

「……ジャ…………」

 

 

チェ・ヨンはもう

 

 

ウンスの中にしか

いることが

できない躰に

 

 

なって

 

いた。