チェ・ヨンは

 

「Rain」

 

そうささやきながら

雲など一つもない

あの蒼白い月に手を差し伸べ

枯れ果てた自分のための

雫を請うウンスを

 

ちらり

 

ちらり

 

と、恥ずかしそうに

見つめていた。

 

 

その女よりはるか上にある

その瞳は

蒼白い月を見上げている

振りをして

 

左斜め下を

ちろちろと

見つめている。

 

 

自分の月を見つめる

その男の

乾ききった頬。

ささくれ立った唇。

血走った瞳。

 

それらは

ウンスが呼び込む

「Rain」

でようやく

潤いを

取り戻していった。

 

土気色のチェ・ヨンが

白く輝く潤うチェ・ヨンに

みるみるうちに

変わっていく。

 

赤く滲んだ瞳が

徐々にあの

潔白な白さを

取り戻していく。

 

固く結んだ唇と

動かなかったその瞳が

 

緩み

動き

 

ウンスを

見つめるそれに

なっていく。

 

 

さあぁぁぁぁぁぁああぁ

 

 

大晦日の夜だというのに

桜の季節のような

優しすぎる風が一つ吹き

 

チェ・ヨンの

わずかにうねった髪を

なびかせた。

 

頬に「はらん」とかかる。

自分の頬をその髪が

撫でる。

 

 

カンジル。

 

カンジル。

 

カンジル……。

 

 

「カンジテイル……」

 

「俺は」

 

「この風も、この雫も、あの光も」

 

「感じている」

 

 

 

「……生きている」

 

「生きて………」

 

「一人では…な…い…」

「一人では……」

 

 

「生きたい」

 

「生きたい……」

 

「もっと、生きたい」

 

「どこでもよいから」

「あのひとがいる場所ならば」

 

 

「あのひととともに……」

 

「どんなに辛いことがあろうとも」

「あのひとと一緒なら」

 

「生きて…いけ…る……」

 

「どんなに辛くても」

 

「あのひとさえいてくれるなら…」

「俺を見ていてくれるのなら……」

 

「俺の側にいてくれるのなら……」

 

 

そう自分の心が

ちゃんと感じ

 

そして再び

 

あの蒼白い月を

ウンスを見つめるのとは逆の

左斜め上を見る視線で

恥ずかしそうに見上げた。

 

 

「すまぬ……」

 

「俺……」

 

「やはり…どうか…していた…のか?」

 

「してしまったのか?」

 

「行ってしまったのか?」

 

「いや、やはり」

「違うのだろう?」

「違うと言ってくれ」

 

「違うと……」

 

 

再び見上げる。

自分の蒼白い月を

 

「分かった」

 

「分かっておる」

 

「すまぬ」

「このような俺で」

「すまぬ」

 

「こんな俺で」

 

 

「よいのだろうか」

「このような俺でも」

 

「このような俺で」

「よいのだろうか」

 

「あのような方を」

「俺のようなもので」

 

 

「…………………………」

 

「分かっておる」

 

「だが……」

 

「俺に力を」

 

「俺に勇気を」

 

「俺が俺であるために」

 

「俺に……」

 

 

蒼白い月を見つめていた

チェ・ヨンは

 

頬に

 

ぽつっ

 

ぽつっ

 

とどこからともなく

落ちてくる

雫を

 

一粒

一粒

 

受けながら

躰に満たし

 

Rain

 

と手を差し伸べ続けている

ウンスに

伝えた。

自分の想いを。

 

この大晦日の

もう少しで

年が明けようとしている

この夜に。

 

心の中で。

月を見つめている

振りをして。

 

 

 

「インジャ……」

 

「俺のせいで」

「辛い思いばかりさせてすまぬ」

 

「俺のせいで」

「あんなにも辛い思いをさせて……」

 

「護ると言っておきながら」

「俺はいつも自分勝手で」

 

「側にいろと言っておきながら」

「俺はいつもインジャを一人にして」

 

「俺だけを見て」

「そう言いながら俺は……」

 

「インジャ……」

 

「分かってしまいましたか?」

「俺は、このような男なのだと」

 

 

 

「はっ」

 

「イムジャは最初から

分かっておられた」

 

「俺がこのような男だということくらい」

 

「分かっておられた」

「分かっておられて」

 

「インジャ……」

 

 

「インジャ……」

 

「どうしてあなたは

このような俺を選んだのです」

 

「どうして」

 

「どうして……」

 

「天界にいれば幸せに過ごせただろうに」

 

「あの男たちに護られ

楽しい日々を送れただろうに」

 

「俺さえ現れなければ」

 

「俺さえ……」

 

 

「俺など……」

 

 

「………………………」

 

「俺は、俺の真実は

このような男なのです」

 

「強い男などではありませぬ」

 

「俺は…このようにいじいじと

弱い男なのです」

 

「俺は……」

 

 

「ですが」

 

「決めました」

 

「この性格は治らぬと思います」

 

「このような俺はずっとこうだと思います」

 

「ですが」

 

 

「インジャ」

 

「俺に…ついてこい」

 

「このような俺に」

 

「俺に……」

 

 

「俺は…インジャを……」

 

「いつも想っております」

 

 

「ですゆえ」

 

「インジャを笑顔にするよう」

 

「努力します」

 

「笑顔を見ていたいのです」

 

「インジャの笑う顔を」

 

「俺は…いつも…見ていたいのです」

 

「インジャの…笑顔を…」

 

「笑う顔を……」

 

「その笑顔が、俺は」

 

「好きなのです」

 

「インジャ」

 

 

「アイシテル」

 

 

 

 

「愛して…おり…ま…す……」

 

「俺の信義は、インジャにあるのです」

 

「インジャ……」

 

 

 

「ですゆえ……」

 

「よい…です…か……」

 

「あちらに…行っても……」

 

「インジャ………」

 

 

いつも俺の側で

辛抱強く見つめてくれて

護ってくれて

ありがとう……

 

俺の……月

俺の……

 

今宵もまた

見護って

くれます…か……

 

いいでしょう?

ねえ

 

俺の…月……

 

俺に力を

しばし勇気を

 

いいだろう……

ねえ……