「俺の大切な人……」
「俺の……」
「大事な………」
「大切な……人……」
ウンスの躰に
自分のこの想いが
染み渡って
いくように
チェ・ヨンの真実を
告白する。
「この先ずっと」
「あなたは………」
「俺の女」
「俺だけの…女……」
そう、念じ
そう、願う。
「俺の女」
「俺だけの…女…」
「そうでしょう……?」
「そうですよ…ね……」
漆黒に輝く大きな瞳を閉じ
自分の女のそれが
どうしても欲しくて
ぷるんと厚く反り返り
乾ききってしまった唇を
濡れヒカル
自分のあの女の
そこに
這わせ………。
堕ちていく。
「いってしまいたい………」
自分の胸を打つ
自分のイキテル証が
すでに飛び出して
しまいそうに
なっている。
あの穴を探す。
あの蒼い草むらにあった
あのヒカリの穴を。
ここにも
ないのかと
そう探す。
「この高麗でなく……」
「あの世界を……」
探す。
「一足飛びに
行ってしまいたい」
「いや、行かねばならぬ」
そう懇願するチェ・ヨン。
悠長に
疲れ切ったチュホンを
ウンスを愛している
自分の愛馬を
駆けさせ
敵の潜む闇夜になど
行きたくはなかった。
「ここからそこへ」
「あそこへ、すぐに」
「いいでしょう」
「たまには」
「いいではないか」
「それくらい……」
「俺にも、そのようなことが
あっても」
「よいでは…ない…か……」
チェ・ヨンは
ウンスのそれに
自分のあの皺を
そろそろと
這わせながら
そう、つぶやいた。
「俺には…ないの…です……」
「何一つ…ないので…す……」
「インジャと重ねた、想い出が」
「インジャのあの時の、想い出が」
「…ない…ので…す……」
「俺には……」
「ないので…す……」
「俺にも…一つくらい」
「想い出を」
「インジャと俺にしかない」
「想い出を……」
「くれぬか」
「一つくらい…あっても」
「よいでしょう?」
「ねえ……」
「大事なそれが」
「欲しいのです」
「見たいのです」
「インジャのあの時を」
「無邪気なインジャの」
「今よりもっと無邪気な
あの時のインジャを」
「俺も…一度でよいから……」
「その………一度が………」
「その………初めてが………」
「インジャの初めてが………」
「欲しい…ので…す……」
「インジャの初めての……」
「それ…が……」
「知っているのです」
「インジャ」
「初めての……は……」
「インジャ………」
知らぬ間に
ひたひたと
また頬を伝い始めた
チェ・ヨンの雫。
慌てるウンス。
慌ててチェ・ヨンを
チェ・ヨンの瞳を
チェ・ヨンを
見つめなければと
そう思い
その視線をあの樹から
戻そうとした
その時
キラリと
ヒカル
それを
見つけた。
チェ・ヨンを叩く。
「ヨンっ」
「あそこっ」
ウンスを
自分の躰にしまい込むように
ウンスの耳………
頬…………
唇………。
そして首筋………へと
必死で自分のものにしようと
手繰り寄せようと
振り払おうと
その男の乾いたそれを
降らし始めていた
その時。
稲妻のように
自分の躰を刺し貫いた
ウンスの言葉。
漆黒の中に
一つ。
ヒカルその瞳で
先ほど探していた
その場所に
もう一度
視線を
すっと
流す。
その時。
確かに。
あの蒼い草むらと
同じ
あのヒカリが
キラリと
閃った。
チェ・ヨンが視線を
流した
その瞬間。
「ここです」
まるでそう言っているかのように
微かに閃った。
頬に一筋の雫を
零していたチェ・ヨンは
ウンスをすっと抱きかかえると
二人の樹の
根元の
ソノヒカリ。
ソノ奥の
ソノ暗闇へと
姿を
消して
いった。
「インジャ………」
「参りましょう………………」
「俺たちの………」
「二人だけの」
「あの場所へ」
「インジャ………」
「俺から、決して離れるな」
「俺の胸の中に………」
「ここにいるのです」
「よいですね」
「インジャ………………」
「インジャ………」
「俺の初めてに………」
「インジャの初めてに………」
「なるために」
「書き換えるのです」
「すべてを」
「よいですね」
「インジャ………………」
「アイシテル」
「愛してる」
「インジャ………」
俺の大切な女……
インジャ……
しばし……
インジャの肩で
寝ても
よいですか………
俺たちだけの
あの場所で。
インジャ………………。
俺はインジャの
無邪気なあの時が
まだインジャが
初めてのそれを
知らぬ
あのころへ
行きたいのです。
行かねばならぬのです。
絶対に。
インジャ………………。
だから
よいですね?
インジャ………。