「この音は、一体どこから流れてきておるのだ?」

 

「一度も聴いたことがない……」

 

「言葉も……分からぬ……」

 

「ああ…………」

「いや、そういえば……」

「あの天界と言われるところに、イムジャがおられる所へ行った時、流れておったような……気がする……」

 

 

「ああ………」

「それにしても……」

「何やら分からぬが、心地良い………」

 

「心が………」

 

「萎んだ……諦めようとした俺の心が……」

「再び躍動するような……いや……躍動する前のような……」

 

「イムジャにお会いした時のような……」

「そんな気がして……ならぬ……」

 

「疼く……」

「疼くのだ。この躰が」

 

「この音で、疼いてしまい……どうにもならなくなってしまいそうで……」

「俺はまた、一人で……。俺は、また……」

 

 

「だめだ」

「このようなこと」

 

「だめだ」

「だめなのだ」

 

「また、俺は……また、イムジャに、会えなくなってしまうではないか……」

 

 

「俺の胸、どうにかなってしまったのか?」

「俺の耳、おかしくなってしまったのだろうか?」

「俺の心、どこへ行こうとしておるのだ」

 

「一体………」

 

「幻聴……なのだろうか……」

「やはり……」

 

 

「イムジャに会いたくて、でも会えなくて……」

「この前、つい、俺が邪な想いを抱いてしまったために、イムジャの元へと行けなくなってしまい……」

 

「イムジャは……」

「どうされておるのだろう……」

「大丈夫だろうか?」

 

「一人で」

 

「あの方は、いつも一人なのに」

「母上と父上に甘えればよいのに、意地を張って、決して甘えぬお方」

「甘えて差し上げれば、母上も父上も喜ばれるだろうに」

 

「可愛い娘、私たちの可愛い子供、そう言って抱きしめてくれるだろうに」

 

「ああ……。ご両親しかおらぬのに……。あの方を抱きしめてやれる人は。あの方を慰めてくれる人は。あの方を、温めてくれる人は……。ご両親と……多分……俺……しか……おらぬ……」

 

「……のだろう……?」

「そうだろう?」

「そうなのだろう?」

 

「そうだと……言ってくれ……」

 

「イムジャ……」

「幻でもよいから、俺の側に来て、俺しか、温めてくれる人は、そんな男はおらぬと、そう言ってはくれないか……」

 

 

「イムジャ………」

 

 

 

「………会いたい……」

 

「……会いた……い………」

 

「お会いしたいのだ……。どうしたら、お会いできるのだ……俺は……」

 

「俺が何をしたのだ?」

 

「ただ、少し、その……イムジャを……イムジャに……その手に触れてみたいとおもっただけではないか……。その頬を撫でてみたい、そう想っただけではないか……」

 

「その髪……乱れておる……梳いてやらねば……その髪……。俺の柘植ぐしで……。母上の形見のあの…・…柘植ぐしで……」

 

「その躰……疲れ果てて……おるでは……ないか……」

 

「ああ、俺のイムジャ……」

「抱きしめて、温めて、癒やして……やりたいのに……」

「ただ、それだけ……なのに……」

 

「じゃじゃ馬のような、そんな風にしか、周りに見せられぬそなたの心。分かってやれるのは俺だけだ」

 

「そうだろう?」

 

「同じ……なのだ……俺たち……」

「同じゆえ……分かるのだ。イムジャの…気持ちが…イムジャの…心が……」

 

 

「ああ………」

 

「涙があふれるではないか……」

 

 

「このような……イムジャの…その元で……聴いた……そんな気がする音ばかり……聴こえて……俺……。何を言っているのか、ほとんど分からぬが……イムジャの心が……言葉が……その唇が……俺に伝えたい気持ち……分かるのだ……」

 

 

「……イムジャ……」

 

「俺が……見えておりますか?」

「俺を……感じておられますか?」

 

「俺を……感じ……て……」

「俺の……この……震えてならぬ……この胸を……鎮めて……」

 

「イムジャ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨン………」

 

「ヨン……って……言うのよね?」

 

「ヨン……どうしたの……そんなに涙流して……」

 

「私まで、悲しくなるじゃない」

 

「見えてる」

「私ずっと、あなたの側にいたの」

「あなたに寄り添ってたの」

「ほんとは」

 

「全然分からなかったでしょうけど」

 

 

「あんまり来てくれないから、祈り続けたら、ふっとあなたが見えて……。だから一生懸命、あなたのとこまでたどり着いて……。でもあなたは、分からないみたいで。私のこと。だから、私。ずっとここにいたんだ。だって、なんか、すごく、落ち着くから。疲れた躰が、すっと軽くなって。だって、大好きないろんな曲が、何でか知らないけど流れて……。そしたら……あなたも、それが聴こえるって言ってくれて。嬉しくて……。私……」

 

 

「だから、ずっと聴きながら、あなたの膝の中にちゃっかり座ってた」

「でも、分からないのね? 感じないのね? あなた……」

 

「私には、あなたの心や、あなたの震えや、あなたの涙まで、分かってるのに……」

 

「やっぱり、あれだ!いやらしいこと考えるてるからだ」

「だめだっていったのに」

「そんなこと想像しちゃ」

 

「だって、私たち、まだ……会ったばかりで……」

 

 

「もう!」

「ほんとに」

 

「それに、ここ、どこ? すごい古い所みたい……」

「歴史の教科書の中で、ちらっと見たことあるような……」

 

 

「……でも私、あまりにも温かいから、あなたの膝の中、座ってみちゃった。こんなことしたことないのに……。でも、アッパみたいで……。んん。アッパより全然大きいけど、アッパみたいに温かくて。すごく居心地がいい……。私、ちょっと疲れてるんだ……。ちょっとだけ、ここで寝てもいいかな……」

 

「私……もう……本当は」

「疲れちゃった……」

 

「いい加減、疲れちゃった………」

 

 

「ね……起きたら戻るから……」

「ちょっとだけ……」

 

「いいかな……」

「ちょっとだけ……」


 

「あなたの心、あなたの言葉、全部聞こえてるから……」

「私たち……聴いたわよね…・・いろんな曲……」

 

「私……流してたから……」

「好きな曲……」

 

「その曲、感じてくれて、嬉しい」

 

「だから、この聴こえてる曲、しばらくの間だけ、聴きながら……」

 

 

「ちょっとだけ……」

「もうちょっとだけ……」

 

「ここで、あなたの膝の中で、くるまって、寝てもいいかな……」

 

「ヨ………ン………」

 

「………………」

 

 

「ありがとう」

 

「あなたがいてくれて……」

 

「本当にありがとう」

 

「私の心の支えに……なってたの……」

「ヨンが……」

「あなたが……」

 

「あなただけが……」

 

 

 

 

 

「……イムジャ……」

 

「どうしたら、そなたの所へいけるのか……」

 

「ああ、だが……何やら、腹が温かく、心地良く………」

「眠くなってきた……」

 

「腹の中に、何かまん丸な温かいものが……」

「月……では…・・ないし……」

「月は……来てくれない…し……」

 

 

「だが……今は……本当に……」

「腹から胸……俺のそこが……気持ちよく……」

「心地良く………」

「何かを抱きかかえているようで……」

 

「ああ……寝て……しまい……そうだ……」

 

「イムジャ………」

 

「俺の………」

「イムジャ………」

 

「俺と、ともに、いつか、眠っては……くれないだろう……か……」

「このように……。まるで、今のように……」

 

「よい……だろう?」

「なあ…・俺と……ともに……」

 

「この数珠玉のような音たちと」

「この数珠玉のような音を奏でながら」

 

 

「二人ともに……二人一緒に……二人一つに……」

 

「よい……だ……ろ………う…………」

 

 

「……………イ……ム……ジャ………」

 

 

 

「……………………」

 

 

 

「いるのだな……」

 

「ここに……」

 

「インジャ……」

「あなたは……」

 

 

「インジャ………」

 

 

「ありがとう……俺の側に……」

「来てくれて……」

 

 

 

「ありがとう………」

 

 

「インジャ…………」

 

 

イムジャ………

眠りましょう……

俺と……

ともに………

 

 

今宵だけ……

ともに……

 

俺とイムジャの二人だけで……

眠りましょう……

 

 

イムジャ……

良いでしょう?

今宵だけは……

ともに寝ても……

 

 

 

 

 

 


 

3月3日ひな祭り

今宵だけのヨン物語公開Verです。