相変わらずA子はこちらから話しかければ最小限の受け答えをする程度で、目も合わせない。しかし慣れればこれも気楽かも。何しろ俺から用を頼むことはほとんど無いからね、彼女が俺に頼らないというのならマイペースに過ごさせてもらおう。まあ実際、炊事洗濯は俺が好きでやっているので、彼女も俺を無視しつつ頼っていることに変わりはないのだが。こういう時、日ごろから家庭で存在意義を発揮している甲斐があって、疎外感を感じずに済む。
それでも朝は残りご飯とインスタントチゲ汁の卵落としを、A子が黙って作ってくれた。出発時間を何も告げていないのに、ジャストのタイミングで提供してくれたのはさすが。なければ早出してカモメ亭へと思っていたが、ありがたく食べて部活へ。練習は久々に俺のメニューで5700m。全員揃ったので、初めに座らせて「お金を払って施設を借りて制限時間の中で練習している」という状況について改めて説明する。自分たちの取り組み姿勢を改善することで、もっとずっと効率よく練習ができるはずだと。
おかげでインターバル間・メニュー間のロスもほとんどなく、メニュー通り時間ぴったりに終わることができた。俺も現金なもので、自分で立てたメニューだと熱心に指導する気になる。練習を終え、夕食の買い物をして帰宅。母子はお握りで昼食中。子どもたちだけ「お帰り~」と迎えてくれる。一方的な冷戦はまだ続くようだ。
それでもピアノ指導の合間に、俺のシャツやズボンのアイロンがけをしたり、お茶を入れてくれたりしている。通常時よりサービスがいいくらいだ。やはり俺が家事をこなす以上、彼女も借りを作った状態のままではいられないのだろう。してみると冷戦状態というのもなかなか快適かも。夕食はチキンカツカレーと野菜サラダ。例によって早めに作り出すが、夕食を何時にするというのをなかなか言い出さないのでつい19時だろうと18時過ぎに炊飯器のスイッチを入れたら、直後に「19時半でいい?」と聞いてきた。一手遅かったが明るく「いいよ~」と返す。
さすがに揚げたてのカツを乗せたカレーには「美味しい~」と言ってくれる。よし、勝った。その一言を貰えたら、洗い物も喜んでやるよ。録画のミュージックステーション、椎名林檎と宮本浩次のデュエットに唸らされる。美女と野獣というか、気難し屋の宮本がここまでコミカルなパフォーマンスに徹することにびっくり。もちろん声の技量に圧倒的な自信があっての余技なのだろうが。