どうやら祈は本格的にハイハイできるようになったようだ。布団の上に寝かせておいても、どんどん前へ進んで机の下へ潜ってしまう。ただ頭を上げておくのが疲れるようで、尺取り虫のように頭をついて体を曲げ、前方へ伸びていく進み方だ。とにかく今まで以上に目が離せない。唯も和子もビーズやらヘアピンやら小さいアクセサリー類が大好きなので、つい祈の手の届く近くに置いてしまいがちだが、こればかりはたとえ嫌われようとガミガミ叱って改めさせねば。

朝食は子供たちに目玉焼き、味噌汁は豆腐と小松菜、俺たちは納豆。弁当にマルシンハンバーグの残りを詰める。せっかく洗濯物をベランダに干したのに、出がけに降り出してがっかり。職場では11月から願書受け付けが始まる学校の推薦書書きに頭を悩ませる。大体この時期に出願が始まる学校は倍率が高く、推薦書も担任の意欲を試すかの如く記入欄が大きく空けてあるところが多い。正直そんな担任の誠意を試すようなことはしないでもらいたい。受かるも落ちるも本人次第でしょう?

学年では遅くまで受験勉強している生徒のために当番制で残業体制を敷いている。今日は俺が当番の日だったが、特進クラスの担任や主任は毎日当然の義務といった感じで一緒に残っている。俺のクラスは殆ど一般受験がいないとは言え、同じ学年を受け持つ者としてせめて当番の日は最後まで残ろうかと思ったが、19時を越えてさすがにA子の途方に暮れた顔が脳裏に浮かび、主任に頭を下げて帰らせてもらう。同僚に済まないとは思うが、俺達の仕事は育児と直結しているともいえる。誰かが子育てに力を注いでくれているから、健全に育って高校生となり我々の勤務が成り立っているのだ。そう考えると、家事育児を優先することは職業倫理にもとるとは言えなくなるのではないか、って勝手な理屈か。

急いで帰って子供たちを風呂に入れ、寝かせつけはA子に任せて一人冷めた夕食をいただく。今晩は焼きそば。唯も和子も寝る直前まで元気いっぱい、一緒に遊ぼうと俺の背中をよじ登ったり人形を手渡してままごとに付き合わせようとしたりする。いつもはうるさいと叱ってしまう俺だが、今日はふといつまでこうやって懐いてくれるのかと思い、我慢して付き合うことにする。しかしこうやっておもちゃで子供と遊んでいる時間を、勿体ないだのこの隙にあれやこれができるだの考えてしまうこと自体が、現代合理主義という病に冒されているのではないかな。