さて、新学期の始まりだ。朝生徒が登校してから始業式までに時間があるので、色々ある配布物を分けてしまって読ませていようと、つい今年度の時間割まで配ってしまい、今年の担任が俺であることが事前にばれてしまった。毎年始業式後の公務分掌発表において明らかにしているもので、生徒たちはこれを聞いて歓喜や悲鳴の声を上げるのが恒例行事になっている。だから職員たちは皆それまで悟られないように気を遣っていたのだが、俺もバカだね。案の定俺のクラスの担任発表の時だけリアクションが薄い。尤も秘密にしていても、俺に対しての反応はそう変わりはなかっただろうというのが、3年二周り目の実感だが。
 
式典後改めてクラスに向かい、いろいろ話をする。きちんと聞いてくれてよい生徒たちだ。クラス代表委員も今日のうちに決めることができた。掃除をして解散。その後は細々とした新年度準備や、明日の入学式準備に追われる。3年の授業は今週末から始まるので、レジュメの用意をしなければならない。でも、やっと授業が始まるという高揚感もある。今年も専門の世界史を中心に持つことができて、ありがたい限りだ。
 
定時やや過ぎに帰ると、唯だけが待ち構えていて一緒に外で遊ぼうとせがむ。日中じいじばあばが近くのT山公園に連れて行ってくれたそうで、和子は17時過ぎに寝てしまったのだと。A子が珍しく俺の両親に感謝していた。それにしても、和子が夜になって起き出さねば良いが。夕食はレトルトカレーの茹で卵乗せ。まあ今日は夕食準備までお袋に頼めないわな。和子を起こさないように、できるだけ静かに過ごしていたのだが、そのうち寝室のドアの向こうからかすかにすすり泣きらしき物音が聞こえ始め、A子と二人「まずい!」と身を固くしてドアを注視していると、音もなくゆっくりドアが開き始めた…ってまるでホラー映画の一場面のよう。
 
見ると和子が立っていて、いつもの「ビエーン」の大泣きでなくシクシク啜り泣いている。駆けつけて訳を聞くと、「だって和子独りぼっちなんだもん」としゃくりあげながら訴える。小さい体ながらに、俺たちの「そのまま寝ていてくれ」という気持ちが伝わり、疎んじられていると感じて悲しくなったのだろう。ごめんよ和子、一緒にいようね。でもこれで夜の寝かせつけが大変になったぞ~という恐ろしい思いがあるのも事実。案の定、風呂上がり歯磨き後もなかなか寝室で静かにならず、俺のところへ戻ってきて絵本読みをせがむ。何故か昼寝をしていない唯まで一緒に元気に過ごしているので心配だ。もうすぐ幼稚園が始まるというのに、そんなに夜ふかし体質になってしまっては苦労するぞ。