昨夜は週末のためか酔っ払いの嬌声がひときわ高く、夜遅くまで続いてよく眠れなかった。大舞台の大会を目指す選手を抱えて、つくづく宿の選択を誤ったとほぞを噛む。それでも朝食時に確認すると、皆「よく眠れました」とキッパリ応えるのは、今さら不平を口にしても仕方ないと割り切っているからなのか、それとも日中の疲れで本当にぐっすり眠れたのか。事実はどうあれ、引率者がこのような問題で気を揉むこと自体が、既に宿泊環境設定のミスを物語っている。朝食に、昨夜のカレイだろうかやたら脂っこい焼き魚が出てくる。大会当日は油脂を控えてエネルギーになりやすい糖質を多く摂らせたいのだが、宿の主人がスポーツ選手の扱いになれていないのだろう。

これまで見てきた子たちは、殆どが県大会に出場できたこと自体がIHのゴールだったようなもので、それ以上の大会を目指せる素材ではなかった。だから宿も、「高校生が贅沢を言うな」とばかりに、引率者にとって都合の良い「安くて、会場から近くて、道を覚えやすい」条件を優先して選んできた。その結果、大会開催中だというのに高校生の同宿者は皆無の、日雇い系の労働者ばかりがたむろする木賃宿のような宿舎を毎年利用するはめになり、それを「贅沢慣れした高校生にはいい体験だろう」と悦に入っていたのだから情けない。上位を狙える選手を、いかにコンディションを整えた状態でレースに送り出してやるかが最大の役目だと理解していない馬鹿者だ。

それでも地区予選の結果では厳しいと思われていた200IMで、S嬢は大健闘を見せる。予選は昨日と同じく5~9位が混戦の9位、しかし昨日の反省を生かして決勝までの時間に体力を回復させたのだろう、決勝では予選を上回るラップタイムで自己ベストを更新する泳ぎを見せた。しかし、順位は8位と僅か0.14秒差の9位。計時係をやりながらレース展開を見つめていたのだが、思わず座り込みそうになる。ラップをよく見ると、最後の50mだけが予選タイムを下回り、ラストスパートになってばててしまった事を物語っている。ラスト50を予選と同じラップで来れれば、僅差で滑り込むことができたのに・・・。いや、一番悔しい思いをしているのはS嬢本人のはずだ。

なんて声をかけてよいか悩む。「いい宿に泊めさせてやれなくてごめんな」という言葉も頭に浮かぶが、そんな後出しジャンケンのような謝罪をされても、俺の罪悪感が多少薄れるだけで彼女にしてみれば「レースが終わった後から言われても仕方ない」と思うだけだろう。俺がよく唯に「○○したかった~」と泣くのでなく、先に行動しなさい、と注意するが、何のことはない俺自身が後になってぐずぐず後悔する、先見性や行動力に欠けた性格なのだ。車で学校に戻り、部員を解散させて帰宅。子供たちは明るく迎えてくれるが、俺の気は晴れない。