この宿は駅前通に面しているので、俺の部屋がある表通りは車やバイクの走る音で、部員たちの部屋が面している裏通りは酔客やカラオケの歌声で、夜中まで結構騒がしい。それでも消灯を申し付けてあった22時過ぎにはどちらも静かになり、安眠妨害にはならなかったと思うが、とにかくS嬢がベストコンディションで競技に臨めるように配慮しなくてはいけない。朝食時によく眠れたか聞くと「大丈夫です」と相変わらず無愛想な返事。まあ今更聞かれても仕方のないことではあるのだが。

毎年ここへ泊まる時には何かと話しかけてきて、出立時になど火打石で見送ってくれる世話焼きのご主人が、去年から蕎麦打ちの店も始めたとかで、厨房にこもりっきりでろくに顔も見せない。それはそれで気楽ではある。途中コンビニで昼食を購入。会場についても地区が違うのでそれほど準備に責任を感じなくてすみ、久々に再会する他校の顧問たちと気楽に談笑して過ごす。係は今回も計時なのでゆったり過ごせる。

注目のS嬢レース、今日は400IM。予選では5~9位までが団子状態の9位、しかも地区予選タイムから3秒も落としているので、決勝に向けての駆け引きの結果だろうと、それほど心配していなかった。しかし決勝でタイムを上げてきたのは他の4人で、彼女はただ一人予選タイムを下回る数字、やはり9位となってしまい、あと一歩で上の大会に駒を進めることが叶わなかった。俺の気持ちはともかく、当人がさぞ悔しかったろうと思う。何せ地区予選のタイムで来ることができていたら、7位入賞できたのだから。

慰めの言葉も見つからず、「お疲れさん」と言って宿へ戻る。夕食時になるとプレッシャーから解放されたせいか昨日より話は弾むが、しかし心中はいかばかりか。やっぱり来年はもっと値段が高くても確実に静寂な環境で体を休められる宿をとってあげよう。電話で唯・和子としばし話す。こうやって離れていると、二人ともとてもなついた声を出して「早く帰ってきてね」と言う。半分は後ろでA子が言わせているのだろうが。さて、今晩も早く寝て、明日のレースを見守ろう。