今にも降り出しそうな曇天、5時に起きてそっと出発しようと思ったのだが、昨夜も早く寝付いた唯が寝室でワイワイ騒ぎ出し、ついにA子・和子とも起こされてしまう。母子の朝食は買い置きのパンで済ませるという事で、俺は大会会場へ向かう途中にコンビにお握りを買う。

開門前の会場は例年通り近隣四県からの出場校が、それぞれ自分たちの休憩場所を確保しようとごった返している。そんな仕事は部員たち、しかも新入部員のやることなのだろうが、我が部員たちは気が弱く群集を前に尻込みしてなかなか中に入って行けない。いつもならそんなモタモタ振りでろくな場所が取れなくてもまあ良いかで済ませるのだが、今日は雨になること必定なので何としても屋根のあるスペースを確保せねば、部員達の居場所がなくなってしまう。仕方なく俺が門の近くにずんずん入って行って係の指示で行列がきちんとできたところで男子二人の部員に代わる。これでまず大丈夫と思って開門後先発隊の後ろをゆっくり中に入っていくと、「先生、確保しました」と得意そうな連中の押さえた場所はなんと階段の下、吹き抜けで雨が掘り込んでしまうので他団体が嫌がって空けておいた所だ。思わず「他にもたくさん空いていただろうが・・・」とガックリする。

仕方ない、何とか雨が本格的にならない事を祈るのみだ。レース自体はほぼ全員が自己記録を更新する成果を見せ、順調な仕上がりを感じさせた。ただ一人、S嬢だけが中学時代の自己記録に程遠い状態。ピークに持ってこさせるにはまだまだ泳ぎ込みが足りないか。数日前まで風邪で練習も休んでいたので当然の結果とも言える。しかし俺の運営するこの部活環境で、彼女の限界を打ち破らせるようなきびし練習がどれだけ用意できるか、また彼女がそれにどれだけついてくる意志を見せるか、はなはだ心許ない。競技役員としては3交代制の折り返し審判、楽だった。交代の合間に「国家の品格」を読了、これは名著だ。

恐れていた雨も最後のリレーの頃になって本降りになり、競技を終えた女子たちで慌てて荷物をどかし、被害を最小限に止める事ができた。明日は晴れるというので、暑くなればこの吹き抜けの下は結構快適かもしれない。階段を上り下りする人の履物から色々落ちてくるのが難点だが。解散前に記録のとり方、自己のタイムへのこだわり、他校ライバルのタイムへの関心など心がけを話したのだが、その間S嬢はやる気のない顔でやや離れて突っ立っている。いつもの俺なら叱り飛ばすところだが、どうしたら彼女の意欲を引き出せるかと試行錯誤中であるだけに不遜な態度もすぐに指摘しづらい。そんなに部員に遠慮する自分にまた腹を立ててしまうのだが。

19時に帰ると今日は唯・和子とも起きていて、一緒に風呂に入ることができた。夕食はお袋が用意してくれたというカツオ叩き、鰻の柳川風、小松菜と油揚げ炊きなど盛りだくさん。A子は「あなたに食べさせたくて張り切ったみたいよ」などと当てつけのように言うが、実家レッスンのため時間の取れないA子に久々に頼られて嬉しかったのだろう。すっかり疲れて、ベッドで子供達の絵本読みを終える頃にはフラフラ、A子に後を頼んで何とか洗いものだけ済ませ、布団に吸い込まれる。