「文明の衝突」という本があります。ロージー・ハンチントンサミュエル・ハンチントン氏の名著であり、現代政治学の入門書とされています。冷戦期に出された本なのですが、世界の国々を資本主義・共産主義といったイデオロギーではなく、文明圏ごとに分け、それらの対立と融合、進歩を解説したもの。イスラム教圏とロシアに関する記述が多いようです。

話は急に変わるのですが、日本の女性誌にも、文明圏があります。オールジャンルで考えると際限なく広がってしまうので、ファッション・美容誌にジャンルを限ります。まぁ小ブログ主の個人的な備忘録のようなものとお考え頂けると幸いです。

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1. 年齢を問わないもの
(1)海外ハイファッション誌
・モード界を牽引するハイブランドのPRが主体。
・各誌とも、割と似通っているが、小物主体、フルルック主義など、細かなところに違いが出る。
・雑誌界でもトレンドの牽引者として独自の文明圏を有する。
(2)美容誌
・メインテーマはメイク、スキンケア、ボディケア、エクササイズなど。
・商品やメイク方法のPRを何より重んじるので、出版社ごとに対象年齢の区切りはあるがそれほど重要ではない。シーズントレンドもあまり関係ない。
・美魔女の起源。

2. 各年代ごとには…
(3)アラフォー以上
・職場復帰の是非、子供の有無、服の単価などで傾向が分かれる。
・服の単価はピンキリだが、アンチエイジング的な観点もあり、コスメの単価は全般に高いものが多い。
・服・コスメの掲載が主体でない雑誌も多い。

(4)25~35歳向け
・各誌ごとに傾向は一貫しており、シーズントレンドの影響をさほど大きくは受けない。
・外資ブランドの高い服やコスメが多いようにも思えるが、意外とピンキリだったりする。

(5)18~25歳向け
・大学生~社会人入門あたりがターゲットなので、系統の違いが最も大きく出る。
→対象年齢をどちら主体に設定するか
→モテを求めるか求めないか
→理想の働き方?生き方?
→…
論点挙げてくとキリない。

(6)ティーンズ向け
・まぁオシャレ&メイクの第一歩ということで。ローティーン、小学生向けも最近はだいぶ進化しているようだけど。

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まあ、ざっと、こんな感じでしょうか。

今回は、(5)の20歳前後がターゲットに含まれる範囲について。

(5)の分野では、2005年以降「赤と青」の攻防が展開されてきました。もはや説明不要かと思われますが「赤文字系・青文字系」のことです。

郵政民営化が決定した2005年から、民主党政権が誕生した2009年にかけては、「赤文字系」が優勢。「赤文字系」はファッションにモテ、男のコ目線での好感度を求めます。テレビのワイドショーを利用したPRを得意とする陣営であり、蛯原友里、押切もえ、山田優、香里奈、長谷川潤、藤井リナ、鈴木えみ、木下優樹菜、佐々木希などがお茶の間を盛り上げました。が、最若手にして最前線であった「PINKY」の休刊と同時にこの「赤文字系」の時代も一区切り付きます。

民主党政権下の2010~12年にかけては、ほぼ全面的に「青文字系」が優勢。「青文字系」はファッションにモテを求めず、自分好みに着飾ることを是とします。陣営を主導する宝島社は、編集よりもマーケティング重視の事業戦略で便利なグッズつきの雑誌を大量に販売し、AKB48のPRの主要媒体社ともなって業績は右肩上がり。

とはいえ、全盛期の勢いは失ったものの、「赤文字系」も黙っていたわけではありませんでした。「ViVi」は路線を徐々に「青文字」寄りに転換。一方ではローラという売れっ子を看板に、伝統の「テレビ売り」を継続して一定の支持をキープ。「JJ」「Ray」では、この期間に桐谷美玲が初めて表紙に起用されています。

また、勢いに乗る「青文字」陣営もまた、一定の共通性はあるものの、具体的に提案するファッションの方向性は実は一枚岩ではなく、媒体によってキレイめ系からビジュアル系まで実に多彩。中には「Steady」のように、ほとんど「赤文字」に近いテイストのものもあり、「これが青文字だ!」というアイコンがなかった。内容で勝負しているといえば響きは良いですが、グッズで売る宝島社の手法をマネできるならば良い方で、ダメなら固定ファン対象に売り続けるしかなくなります。
「青文字」陣営は、最終的に「きゃりーぱみゅぱみゅ」というアイコンを得ることにはなるのですが、アーティストとしてテレビなどに出るのが彼女の売り出し方であり、それは言うなれば(PRの手法において)「赤文字の軍門に下る」、つまり「青文字」としては負けたことになります。
さらに「PINKY」を失ってしばらく経つと、集英社は「青文字」に属していた「non-no」の「赤文字」寄りへの路線改革を実施。キレイめで男のコウケの良いスタイルを推し、桐谷美玲、大政絢など人気の元Seventeenモデルを集めて「第2、第3の鈴木えみ」としてテレビに出すという「赤化政策」に舵を切ります。なお、先に述べた通り、「ViVi」が青文字寄りに路線転換を行ったため、これ以来「ViVi」と「non-no」では掲載コーディネートの重複が増えました。

こうして、自民党の復権と時を同じくして、「青文字バブル」は収束していきます。

そして、アベノミクスと歩調を合わせる形で、再び「赤文字」に勢いが戻ってくることにはなるのですが、出版不況で全体が落ちた状態からということ、また新たなスターが輩出されてはいるものの、前の赤文字黄金時代の主力選手の半数以上を失っていることもあり、第2の「赤文字時代」は違った形で迎えることとなりました。主力となったのは、「JJ」でも「ViVi」でもなく、「鈴木えみの正統なる後継者」である桐谷美玲や大政絢をメインアイコンに、「帰ってきたPINKY」として赤系路線をひた走り、毎月発行部数の記録を更新し続ける「non-no」だったのです。

集英社の「non-no赤化政策」は服の系統や雑誌のPRにとどまらず徹底したもので、2013年夏からは「赤文字」の発売日である毎月23日にLINE公式アカウントで情報を配信。同年末からは嵐の記事を目次前に配置しています。目次前にある一定量の記事は、モテを求めるスタイリング、テレビ番組で雑誌をPRするモデルと並ぶ「赤文字系」の3大要素。さらに本誌の発売日ではない23日に最新情報を配信するとなれば、まさにロックオン。オシャレ入門の「青文字」の一員から、毎月23日発売ではないにもかかわらず、今や新たな「赤文字」時代の牽引役へと生まれ変わっています。

一部からは「non-no」の急激な路線改革を惜しむ声もみられ、識者からは「そんなことをするならPINKYを再刊せよ!」との声も聞かれます。が、集英社にとっては、やはり「PINKY=鈴木えみ」なのでしょう。系統を近づけたとはいえ桐谷美玲や佐藤ありさ、波瑠が仕切る「PINKY」はそれらしくない。一方では鈴木えみの目指す方向性も赤文字とはズレてきている。噛み合わないものを無理に合わせてもいい雑誌はできない。だからこその決断だったのだろうと、ブログ主は思うのです。発行部数というまっとうな結果も出ていることなのですから、それに逆らうことはできません。

まあオチもないのですが、ここまで!