高校中退、酒、たばこ、ドラッグ、家出、中絶

 

彼女は10代の娘が思いつくであろう、

悪さをやりつくした。

 

普通ならただの“あばずれ”だった。

 

 

 

ただ彼女にはふたつの“宝”があった。

 

優れた音楽的才能

透き通るような声

 

そして

デビューとともに世間をあっと言わせた。

 

 

 

 

1954年にシカゴで生まれたリッキーは

10代で家を飛び出し

流れ流れてロサンゼルスのバーで歌っていた。

 

その頃に付き合っていた彼氏は、

トム・ウェイツ。

 

頭角を現しつつある頃で、

彼も音楽的才能にあふれていた。

 

 

彼女のステージは徐々に評判となる。

リッキーの友人の紹介で、元リトルフィートのローウェル・ジョージが、

彼女の作った「Easy Money」を歌ったことでデビューチャンスが来る。

 

そして

4曲のデモテープを聴いたレーベルは、

すぐに彼女の才能に気づく。

 

無名の新人のデビューとしては

考えられないくらい豪華で、

腕利きのミュージシャンたちを揃え

デビューアルバムを制作させる。

 

ニール・ラーセン

ドクター・ジョン

トム・スコット

ランディ・ニューマン

スティーブ・ガッド

ジェフ・ポーカロ

マイケル・マクドナルド

などなど。

 

超大物アーティストじゃないと

ありえないラインナップ。

レーベルの自信のほどがうかがえる。

 

 

 

そして1979年2月

「Rickie Lee Jones」を発表。

 

Rickie Lee Jones

アルバムは100万枚以上を売り上げる

ビルボード3位の大ヒット。

 

なかでもシングル

「Chuck E's In Love」

のキャッチーなメロディがウケて大ヒット

(ビルボード4位)

 

 

このアルバム

さすが腕利きのミュージシャンばかりで完成度の高い演奏だが、

注目すべきはその中身。

 

フォークやロックにジャズやブルーズが融合された音楽。

 

ジョニ・ミッチェルが

何年もかけて到達した域に、

リッキーはいとも簡単に足を踏み入れ、

そして軽々と飛び越えてしまった。

 

しかも、

彼女の“奔放さ”を

魅力いっぱいに放ちまくった。

 

「Young Blood」(ビルボード40位)

 

 

次作「Pirates」では

さらに完成度を上げたアルバムを発表する。

 

これも大ヒット(ビルボード5位、1981)

Pirates [Explicit]

 

「A Lucky Guy」

 

「Pirates」

 

 

 

3作目はこれまでの音源やライブを中心としたミニアルバムを発表。

ただ内容が地味だったこともあり、

ビルボード39位に留まる。

 

そしてそれ以降、

彼女のレコードは売れなくなる。

 

リッキーの音楽性が低下したのではなく、

時代が華やかで軽い時代に変わってしまった。

 

 

思うに60年代末、

マイルス・デイビスが

ジャズとロックの融合を図って以来、

ジョニ・ミッチェルやスティーリーダンなどに受け継がれたジャズへのアプローチが

リッキー・リー・ジョーンズで一つの完成を見たのかもしれない。

 

そしてこの10年にわたるムーブメントは終わりを告げた。

 

ジャズはその後、

80年代後半にアシッドジャズへと引き継がれる。

 

 

1989年

スティーリーダンのウォルター・ベッカーをプロデュースに

心機一転、

新作「Frying Cowboys」を発表する。

 

そこそこヒットするものの、

もう初期の頃の勢いはなかった。

(ビルボード39位)

フライング・カウボーイズ

 

それ以降は

世間に媚びることなく、

自分らしさを貫いていく。

 

 

 

2015年

これが今のところ、彼女の最新作。

「The Other Side Of Disire」

The Other Side of Desire

 

この時、リッキーは還暦。

 

あの声がどうなったのか気になるね。

 

「Jimmy Choos」

少し衰えたけど、彼女らしさは変わらない。

よかった。

 

 

 

 

 

「Girl At Her Volcano」

リッキーの3作目。

Girl At Her Volcano

この中の1曲に、当時付き合っていたトム・ウェイツがリッキーのために書いた曲がある。

 

1978年に録音されたが、

デビューアルバムには収録されず、

1983年の本作に、忘れていた遠い記憶を想い出すように収められた。

 

この当時、トム・ウエィツは

多少名の知れた存在だったけれども、

まだ二人とも富と名声を手にする前。

ただの29歳の男と24歳の女。

 

 

しかし、その後のリッキーの大ブレイク。

 

新しい幸せを手に入れると、

これまでの幸せは色褪せ

手の平から滑り落ちていく。

 

二人の間に何があったか知らないが、

このあと、二人は別々の道を歩く。

 

 

 

何もなかったけど、

二人でいるだけで幸せだった時代。

 

そんな時に録音された

愛情にあふれた歌。

Rainbow Sleeves

 

自分がささやく望みでできた翼に乗って

行ったことのないところに飛んでゆく夢を

君はいつも見ていた

 

決して憂鬱を感じないとわかっているところへ

夜ごと、月と君が運ばれていっては戻ってくる

 

今や君の夢を運ぶのは、

いつもウィスキーにもらった翼で

月もすでに君のものではない

 

でも君の心は若いころの夢をもちつづけていると私は信じている

絶対に年をとってはいけないと

私は云われてきた

そして、傷ついた心は癒された時、

さらに強くなると

 

憂鬱のせいで歌うのをやめたりしないでくれ

君は翼が片方折れただけなんだよ

だから、私の虹につかまってくれればいい

私の虹にしっかりつかまって

虹色のたもとへ連れて行こう

 

 

 

 

虹のたもとに置き去りにされた

トム・ウェイツのその後。

 

 

 

 

 

リッキーと別れたトムは

単身ニューヨークに移り住む。

 

 

 

 

1985年

アルバム「Rain Dogs」が世界中でヒット。

 

この中の1曲、

「Downtown Train」を

ロッド・スチュワートがカバーして、

ビルボード3位の大ヒット。

 

その後は、新作を出すたびに

常にランキング上位に顔を出すようになる。

 

 

さらに

フランシス・フォード・コッポラや

ジム・ジャームッシュの映画に抜擢され、

俳優としても活躍するようになる。

 

 

 

 

 

そして1992年、

リッキーから遅れること13年。

彼もまたグラミー賞を獲得。

 

 

トムもまた、虹の向こうにたどり着いた。

 

 

(おしまい)