先に断っておくが、キンクスは決してオネエなバンドではない。

レイ・デイビスのイギリス人らしいアイデンティティが発揮された結果である。

 

 

レイ・デイビスの書く詩は、しばしばリスナーを困惑させる。

ザ・フーのピート・タウンゼントは、

「ロック史上、新種の詩を発明した偉大な天才詩人」と、レイのことを褒めたたえている。

 

 

その問題の歌のストーリーはこんな感じだ。

ロンドンのソーホー(六本木か歌舞伎町のようなところ)

のクラブで知り合ったローラに、主人公は一目ぼれしてしまう。

しかしそのローラと名乗る女は、女らしく歩くのに男らしく喋り、

彼女に抱きしめられると背骨が折れそうになる。

その混乱する童貞の主人公はローラにお持ち帰りされ、

女を知る前に、先に男を知り目覚める。

 

これは自分が知る限り、世界初の“おかま”をテーマにした歌だと思う。

 

一人の青年の混乱ぶりが描かれたこの歌は、

1970年の6月にリリースされるや熱狂的に支持され、世界各国でNo.1ヒットになった。

本国イギリスでは2位、

アメリカのビルボードでも9位と久々のトップ10ソングとなった。

ただこの曲の扱いに困り、問題のシーンの手前で曲をフェイドアウトさせるラジオ局が出たり、放送禁止にする国が出たりと、

それだけでこの曲がどれだけ世間に驚きと困惑をもたらしたかがわかる。

 

 

キンクス

 

彼らはビートルズやローリングストーンズと同時期に活躍したが、

その浮き沈みっぷりは群を抜いている。

 

1964年、イギリスで華々しくデビューするや、アメリカでもヒットを連発して、まさに得意絶頂だった。

 

キンクス・アンソロジー1964-1971(完全生産限定盤)

 

ところが幸運はそうそう続かないもので、

65年のアメリカツアーにおいて相当“お行儀”が悪かったのか、全米音楽家連盟からアメリカでの活動を禁止された。

それが4年も続き、興行的な大損失だけでなくバンドとしての生命線も断たれたかに見えた。

 

しかし逆にイギリスに閉じ籠ることで、濃厚なイギリス臭漂う名曲をいくつも世に出した。

「Waterloo Sunset」「Sunny Afternoon」などはその代表例だろう。

※この曲は多くのイギリス人に愛され、

様々なアーティスト(ほとんどイギリス人)がカバーしている。

その愛され方は日本人が理解できないくらい尋常ではない。

イギリス人を理解するうえで貴重な一曲といえる。

 

 

そうこうするうちに、ビートルズがサージェントペパーを発表することで、“コンセプトアルバム”ブームが起こる。

レイ先生もこの流れに乗り、コンセプトアルバムづくりに励んだ。

 

ただそれは“病”と言っていいほどの執着ぶりで、

60年代後半に始まったコンセプトアルバム病が70年代の中盤まで続く。

しかしレイ先生の“コンセプトアルバム作戦”は、商業的にことごとく失敗した(作品の質は高く、評論家のウケは良かったのだが...)

 

しかも弟分と思っていた、ザ・フーが発表した「Tommy」が世界中で大ヒットするだけでなく、

ロックオペラを確立したアルバムとして賞賛される中、

実は同じ年にキンクスも「Arthur」という名のロックオペラアルバムを発表していたが、

商業的に失敗しただけでなく、世間から見向きもされないという屈辱を味わう。

(この時以来、レイ先生はザ・フーを敵視するようになる。)

 

70年代に入り、恨み骨髄に達していたレイ先生は、

懲りずにロックオペラシリーズ3部作を作った。

 

が、これは私のような熱狂的なキンクスファンですら、

いまだに“なかったことにしたい”アルバムで、

バンドメンバーに

「自分たちがロックバンドなのか、劇団員なのか分からなくなった」とまで言わしめた。

 

 

こうして「Lola」のヒット以降、長い低迷期に入るが

70年代後半に憑き物が取れたのか、ロックに回帰する。

その後ヴァンヘイレンがデビューシングルで

「You really Got Me」を取り上げることで再び注目され、

ついに1983年、

「Come Dancing」がビルボード6位の大ヒットとなって見事カムバックを果たす。

 

またバンドギタリストのデイブとレイは兄弟だが仲が非常に悪く、

バンド内でゴタゴタがつきなかった。

後にオアシスのノエルとリアムのギャラガー兄弟も仲の悪さで有名だったが、

その元祖はキンクスにある。

 

 

話を元に戻す。

「Lola」は「ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組 第1回戦」というアルバムに収録されている。

この頃のキンクスは、印税の分配をめぐりマネージャーや事務所と法廷闘争したり、

またデビュー5周年記念として準備した自叙伝が直前でボツにされたりとトラブル続きで、

そんなレイの周辺で起こっていたゴタゴタが題材になっている。

 

ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組 第1回戦 レガシー・エディション(完全生産限定盤)

 

このコンセプトアルバムのストーリーはこんな感じだ。

 

平凡な人生を送りたくない、自由に生きたいと決意した主人公は田舎からロンドンへ飛び出す。

ミュージシャンになるべく音楽出版社を周り、何とか契約にこぎつける。

とはいえ、なかなか売れず、職安に通い、ソーホーでおかまに掘られ苦悩の日々が続く。

そのうち曲がヒットし「トップオブザポップス」に出演。

N0.1ヒット曲をはじめヒットを連発するも、なかなか金が自分の懐に入らない。

良く調べたら鼠ども(マネージャーなど)や権力者(パワーマン)に自分は食い物にされていることに気づいた。

最後は彼らと戦い、自由になることを誓う。

 

よくあるアマチュアバンドがのし上がるまでの苦労話と、

栄光を手にした後に起こる悲喜こもごもとした日常を、

怒りとも滑稽ともつかないレイ独特の詩にまとめられている。

 

 

このアルバムはそこそこヒットした。

しかしここからまた低迷の谷に転げ落ちていく。

 

 

ついでながら、

「Lola」はアル・ヤンコビックの格好の材料になった。

 

「YODA」

 

そう、あのジェダイの親分だ。

こちらも笑える。