開演前のロビーで役者が集合するのは、
昨日のダメ出しを聞いて、今日の舞台につなぐためだ。
僕はみんなが集まってくる少し前、
家から持ってきたおにぎりを二つ食べる。
本番二時間前、ちょうどいい。
灼熱の舞台だ。
矢継ぎ早のセリフの掛け合い、
急カーブを猛スピードで曲がったかと思えば、
静かな身体を使ってじっと聞いている。
大声で歌いながら物語り、姫のために一肌脱げば、
魔物タムーラに取り憑かれ、
全員参加の激しい魔法対決。
いや、そういう名の肉弾戦。
照りつける舞台照明に、
汗が止めどなく吹き出し続ける。
その上、着ている冬の軍隊コートは、分厚く重い。
首までの黒いタートルネックが消費した水分をたっぷり吸って、
長い袖がブヨブヨと袖口からハミ出てしまうから、
じつはコートの下では、腕まくりしている。
したたり落ちた雫が目に入ると、照明にまぶしく、しみる。
幕間にTシャツを何枚替えようと、
この汗を吸い尽くすことはできない。
演技ってのは思考作業ではなく
肉体労働なのだと、つくづく思う。
おにぎり2つ。
本番前の腹ごしらえではあるけど、満腹では眠くなり、
お腹が減っては消耗してしまうから、
F1でいう燃料を周回のギリギリ分まで積んで
ゴールまで走り切る分量なのだ。
朝起きたら、米を炊く。
この稽古が始まってから続けたていたことだ。
13分蒸らせた土鍋の蓋をあけると、かたまりの蒸気が上がる。
すぐ、しゃもじでかき回すのは炊き上がったホクホクの米の蒸気を逃がし、
全体を粒立たせるためだ。
しばらくほっとく。
どんぶりに、お茶碗一杯半くらいの米をうつす。
僕は、それにお味噌汁のダシに使う削り節を入れる。
かつお節を粉末状にしたやつだ。
おかかのおにぎりを作るとき、よく小分けにしてあるワンパックのかつお節があるけど、
アレだと3袋ぐらい使わないと、もの足りなく、
経済的でもないので僕は「削り節」だ。
それを
ふんだんに振り掛け、米と混ぜる。
ダシ用のヤツでイワシなんかも粉砕され入っているから、
カルシウムも摂れるかもしれない。
粉が全体に行き渡ったら、香りづけに、醤油をパラパラと振りまく。
炊いた米と削り節に醤油が程よく湯気に乗って、食欲をそそらせる。
「薫湯」なんて言葉が浮かぶ。
湯気の匂いを楽しむ文化って、あるんじゃないかな。
急いでいるのもあり、あとで手を洗うが面倒なのもあり、
おにぎりの型にはめて、二つ作る。
型を使うのは、適量を計るためでもある。
自分で握るとついつい多めに作ってしまう。
型から出したら、塩をかける。
しょっぱ過ぎるかもしれない。メシに塩を多めに擦り込む。
なんせ汗をかく芝居だから、少し濃いぐらいで十分なのだ。
薄味文化なんて近代に入ってからじゃないかな。
肉体労働がメインの階級だった昔は(相変わらずザックリしてるな…)、
よく汗を掻いたはずだ。必然的に塩が足りなくなる。
田舎の梅干しがしょっぱいのは、当たり前なのだ。
近代の日常生活では、そこまで必要じゃないし、
普通に暮らしていたら消費できないから、
高血圧になってしまったりするのだろう。
それでも、現在は、夏、塩分が足らなくて熱射病になってしまうのも皮肉なもんだ。
汗を掻くためにも、塩が必要だ。
で、この塩に
「梅塩(うめしお)」を使った。
梅のエキスで味付けがしてある。抹茶塩なんてのもある。
冷や奴に僕は使う。料理にはあんま向かないんだけどね。
だいぶ前に、公演の差し入れにいただいたのを、
この「削り節おにぎり」使ってみたのだが、
ほんのりとした梅の酸味が、よくあうのだ。
そして「梅塩(うめしお)」って字がいい。
逆さにすれば
「塩梅(あんばい)」だ。
甘すぎず、辛すぎず
語呂合わせて締めるとこが、
僕の「いい加減」な料理に似合っている。
焼き海苔を巻いて、形を整えるために、手でかるく握る。
熱いメシに巻かれた、海苔の匂いが、またいい。
これまた「薫湯」だ、なんて思う。
いい塩梅。
芝居もそうだ、
良い加減
いい塩梅がいい。
そんな、おにぎりを
パクリと食べて
本番に向かう。
本日も訪問ありがとうございます。
言葉になるまで時間がかかるんですよね。
その場でパッパと書けるようになれるといいなぁ
ほんとマイペースな更新なのですが、
みなさんの丁寧なコメントや、
メッセージ有り難いです。涼
《omakke》
うめぼし平野
