「なーんにもなくなっちゃった」
その彼女の実家は結婚したお姉ちゃんの新居のために建て直すことになった。
お母さんは再婚した旦那さんの家にすんでいるのだ。
「早く出ていったお姉ちゃんがあそこに住んで
あとに出ていったわたしが東京に住んでいる」
だいぶ前に閉鎖された遊園地を見に行ったときお世話になった、あの実家だ。
ひさしぶりに呑んだ。
「そっかー」
なんて、軽く返すが わりと寂しいもんだ。
もう五年もたったのか。
お母さんが手動の精米機をグルグル回したご飯と、煮物が美味しかった。庭にはお母さんが手入れした畑がある。
その家の味がする漬け物のキュウリを思い出した。
飼ってた片足のワンちゃんが元気に走っていた。
あのとき、山のようにもらった梅干しが、まだ僕んちの冷蔵庫にある。お芝居の稽古のたびに、おにぎりに入れて食べていた。
「あのお母さんの梅干し、もうあとひと瓶になっちゃった」
「ひー」
まだあったの?
という感じの「ひー」だ。
いや「いー」という驚きか。
…どういう意味だ。
彼女は、笑いながら言った。
「いや~けっこう、インパクトあったよ」
まっさらな土地の向こうには、お母さんの畑。
思い出だけが
ふわり浮いて
「…育ったところが無くなるのは」
だから稽古場のおにぎりは、少し寂しい味になった。
雨漏りがシミになった天井も狭くて急な二階への階段も、
「な-んにもなくなっちゃった」
酸っぱくて塩っぱい、
あの場所で漬けた梅干し。
でも確かに
ここには、まだ
あの場所が
漬かっている。
劇場の幕間に、サランラップの包みをあけて食べるだろう。
酸っぱくて塩っぱい
うめぼし平野の
おにぎりを
≪omakkke≫
本日も訪問ありがとうございます。涼
≪omakke≫
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