五反田シリーズ「前回④」
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階段の頂上に馬が、いる。
しかし、ここは入っていい場所だろうか?
商業施設ではあるらしい。看板をみると、いくつかの店舗がはいっている。
ホテルとかでもなく、結婚式場みたいな貸しホールでもないようだ。
階段をわけて左側は積み重なるような石の壁だ。
対面する右側は、格子のような白い窓枠で飾った曲線のガラス柱のようだ。
しかし週末だからだろうか、人気のなさが、なにかこの建物を静かなものにしていた。
喫茶店はないかな。
石壁の向こうは、インテリア屋のようだ。磨かれた木の家具や椅子が置いてある。店の暗さが石でできた倉の中を思わ屋せる。
店がある建物なら…この階段を登ってもいいだろう。
二階までいけば、BARでもありそうじゃないか。とりあえず二階まで。
おそる、おそる階段を登ってみる。
しかし独特な空間だ。
なぜだろう。
なんとなく迫ってくる両側の壁のせいだろうか、それとも高い天井からくる密閉感だろうか。後ろにある国道一号線の喧騒が遠くなり、車道を忘れさせ静観な趣に包まれるようだ。
二階の石櫃のような窓の向こうには明かりの消えたカウンターがある。
向かいの白い格子は自動ドアの入り口になった。公共施設の間取りだ。専門学校なのか。
週末で授業がないようだ、一人もいない。
すると向かいは談話コーナーなのかもしれない。暗がりの自販機が、休み時間と待ち合わせを思わせる。
三階に上がると、パラソルの閉じたのそとラウンジ、中の店舗の営業は夜からだ。譜面台のメニューをみるとレストランだろう。
向かいの扉は、美容室につながっている。
また喫茶店はお預けだ。
踊場から振り返ると車道からの日差しが、見下ろせた。
石の裂け目の階段の奥に、国道が走っている。
棟の空中をつなぐ鉄の渡り廊下に、生徒はいない。
もうひとつ登れば、馬がいる。
だから、ゆっくりと近づいた。
入り口で感じた象徴性が、ここでは薄れて、ほったらかしの錆びた背中から生えた馬の首には無表情の小さな顔がホクロかおできのようにくっついている。
草に立つ、馬。
そして驚いたのは、そのうしろにある山の事だ。駅からは建物が隠していた、ここに山があるなんて。
台座のそばに、茂みに隠れそうな小径がある。
ここを荒らそうとか欲しいものがあるのでない。
この山をつたい、この建物を裏から見てみたい。
侵入する罪悪感がないではないが、気持ちははたして厳かなのだ。
迷うが、すこしお邪魔してみることにした。
あまりに細い茂みの小道は人が来ないことを、感じさせた。
山というより高台だろうか。
建物の裏には、もう一つの景観があった。
正面からの無機質な感じや、階段の尊厳な態度のような場所とは違う。
この建物が山を背負い、人の暖かい明かりの窓に、下から上まで繰り返す植木が建物を囲い配置されて、まるで照らす緑のかがり火のようだ。
建築家のことを考えた。
この街中に、一つ建物を挟んだこの場所からこの景色をみることは、贅沢だ。
車も人も街並みも忘れさせ、緑と静かな敬虔ともいえる世界を作り上げた。
いや、ふつうはあの建物の中から、この山の緑を覗くのだろうが…
ここからの眺めこそ、一つの創造の姿だ。
僕の今立っている山の向こうには何があるんだろう。
茂みは深く木を乗り越える道もない。
国道にもどり、この山の向こうにあるものを見よう。
小径を引き返し
ふたたび銅いろの馬は、
建物から離れた特別な場所に
具象と抽象の真ん中に立ち、
壁の向こうの五反田駅を
眺めているようだ。
草と木々に囲まれながら。
国道に出ると街の喧騒だ。
山への道を探すとすぐ、路地の角に坂道がある。
入ると小高い丘へ登るような急勾配の小径だ。ここから山の上に行けそうだ。
しかも、舗装され狭い入り口は参道を思わせた。
あの山の向こうには、神社や八幡さまがあるんじゃないだろうか。そんな期待に息を弾ませて、登る。
途中、ビルの背面にある細長い公園では、キャッチボールをする中学生がいた。
中腹をすぎたあたりに閉鎖された廃虚のようなアパートがある。
「池田山ビル」
赤茶い壁に立て板がされて、入ることはできないが、ここが「池田山」と呼ばれているということがわかる。
はたして頂上へゆくと開けた住宅地に出た。
その立派な門構えは、和の様式ではあるが、神社でも八幡さまでもなかった。
なるほど、池田山のてっぺんには、天理の教会だ。
なんか笑みがもれた。
そして、坂を下りる。
池田ビルの横の階段を下り、
そば幼稚園の園児の声を聞きながら、あの馬の建物を創造した建築家のことを考えた。
あの山に対する、この街の風景。
建物を抜けて山の前に、一つの馬を置いた。
五反田の神聖なる野生。
ふと黒っぽい建物に、説明プレートがあった。歴史の跡かなとなんとなく読んでみる。五反田の街がわかるかもしれない。
「日本心霊学協会、研究所」
近代的なスピリチュアルを感じざる負えないが、とはいえ、
ますます、この池田山が、この五反田の地で、ある種の霊的なものをはらんだもののように感じた。
駅から、道路と建物に隠された小さな霊山。
場所と建物が生む風景。
その関係の面白さに気がつき
また、振り返るとき、
街の違った表情を見つける。
喫茶店にも入れず、劇場もまだ遠い、しかし足取りは軽い。
疲れはあるが、愉しい。
※馬の建物は、五反田デザインセンタービル。
最後までありがとうございました。涼
〈五反田シリーズ〉
最初→ ①五反田談(ゴタンダ、談)
②五反田探(ゴタンダ、タン)
古びた屋敷
③ゴタン、ダタン(ポーラ美術館)
④五反田山・上(ゴタンダサン・ジョウ)
