スカイツリーを
横目に見ながら横断歩道を渡る土手通りの脇にして、
いろ
は会商店街がある。
もし車なら、4車線の道路とあまりに立派な正面のスカイツリーに目を奪われ、いつの間にか通り過ぎてしまうであろう、ひだり側にある。
あしたのジョーの舞台になった商店街だ。
と、
ショッピングモールの表玄関に横断幕がかかっているから、そうなのだろう。
「あしたのジョーのふるさと」
ここでの撮影は、もう終わってしまったのだが、有馬湯の集合まで時間があるし古い商店街をブラブラしてみた。
先日の昼、この商店街でのシーンがゲリラ撮影のように、あッという間に終わってしまったこともあって、あまり味わうことができなかった。
そう、味わいたかったのだ。
というのも、
初めてこのモールを撮影場所まで歩いているとき、
まず目にしたのは
閉まったシャッターの前で寝っころがったままの作業服のおじさん。
死んだように「く」の字にして、動いてなかったのが不気味だった。
おもちゃ屋は、100円の古いゲーム機の照明がついているほか、棚は、駄菓子を少し置いているだけ。奥の間のチャブ台には、人のいないテレビがついている。
閉まったシャッターが多い中、その前を発砲スチロールを台にして、物売りがトマトやニンジンや椎茸を100円とか200円と、並べていた。
雨よけの近代的なモールだ。阿佐ヶ谷のパールセンターを思い出したが、
そこかしこと張り付けられた
「あしたのジョーのふるさと」の横断幕は、
盛り上がっているのか、ないのか、風でめくれて折れて汚れながら、ところどころで垂れ下がったままのも、ある。
脇道の角には、やはり、しゃがんですわる男がいるし、ゆっくりとした人通りは、阿佐ヶ谷の活気とは違う、土着な感じがする。
なんだろう。この通りが発している閑散としてスッキリした印象とは、うらはらに根っ子からくるような拭えない匂いの感じが、なんなのか分からないまま、
二三回のリハーサルで、撮影が終わってしまった。
気になっていた。
だから、また来たのだ。
「この街に、帰ってきたぜ!」
と
商店街のゲートの「ふるさとのジョー」が、さっそうと立つ。
集合時間まで、そんなゆっくりも見れないが、
「く」の字のおじさんはもう居なかった。
まだ店を開くには早い時間だが、あのおもちゃ屋は、シャッターを半分開けてた(いや開いたままなのか)
ゲーム機の電源はさすがに消えていて、やはり居間のテレビだけがついている。
さびれた薬屋かなにかのわきの遊具。
お金をいれても動かないだろう。
肌の白すぎる老人がクリーム色の作務衣を着たまま、電柱の前になにをするでもなく、
ただ、呆然とつっ立っていた。
この通りの、なにを見続けているのか。
商店街を中心に生活している住人だろうか、自転車をゆっくり乗った人。
みなひどく年老いた感じがする。
それにしても、貸し店舗が多く、空き家だ。
先日、撮影した場所は意外と手前だったので、もっと奥まで反対側の明治通りの方へ抜けてみることにした。
閉じたシャッターが、朝の空気を吸い込んでいる。
商店街の屋根がなくなる広場のような場所
放置された自転車と
もう向こうは明治通りだ。
そこに
雑然とした
賑わいが、あった。
酒気を帯びた匂いだ。
白い壁ぎわに60代も過ぎた男たちが数名たむろしている。
向かいのめし屋は無関心にのれんを出している。
そっちにも二名がブラブラしていた。
何かを、喋っているが聞き取れない。
少し緊張しながら通り過ぎる。
もうすぐ商店街の反対側の明治通りに出るところだ。
後ろでさっきの男がなんか言った。
1人を引っ掴んで、引きずりだし、蹴っ飛ばした。
離れていて、何が原因かわからないが、なにかをまくし立てる。
蹴られた男は抵抗を見せない。
明治通り沿いに交番があるがこの警官には、聞こえてないのだろうか。
それともよくあるイザコザなのか道路を行き交う車を見ている。
まだなにか言っているのが、朝の閑散とした街に、ひびく。
少し落ち着いたようだ。
殴った男は仲間に、なだめられ、放置自転車のある壁ぎわにもどる。呑む酒がもうないのかもしれない。
「おりゃ北海道(出身)なんだ」
少し大きな声をだして殴られた方の男が立ち上った。
誇りと悲哀を混ぜた曇天ような言葉は、この商店街のにぶい日差しみたいだった。
撮影の集合時間が近くなった。今日は銭湯の撮りこぼしと荒川の土手のシーンだ。
そろそろ行こう。
引き返しながら、男を見た。
傷はないが、かなり酔っ払っていた。烏賊の乾物と酒の臭いがする。
心配して、そばに寄ったもう一人の男は近くのBARのママだろうか、ガッシリしたガタイは背筋をピン伸ばし、まるで婦人のようだ。
鼻筋の通った、くぼんだ眼差し。化粧はしていない。
僕の演っているミッチーはオカマの役だ。ミッチーの20年後の姿を想像する。
僕の視線に気がついたのか、ふと笑ったような気がした。
「あしたのジョー」のちばてつやの描く昭和のドヤ街はすでにないが、日雇い労働者の喧騒のようなものが、まだあった。
数ページの脚本を読んだだけじゃわからない風景の一端を、見た気がした。
街に淡々と流れる空気。
舞台は下町の銭湯だ。
この街を切り取るのだ。
撮影の準備が始まる
有馬湯に向かおう。
電柱には、肌の白すぎる老人が
置物のように、まだ、つっ立っていた。
ぼんやりと見つめるその先は、この商店街、
そのものなのかもしれない。
老人の背を
煤けた屋根と鉄筋ビルと送電線の街が並び
その空を
はるかに突き上げながら、
まるでSF映画のロケットみたいに、
スカイツリーが建っていた。
最後までありがとうございました。
下町を題材にした小さな映画祭に出す小品です。
公開は未定。
有馬湯と吾妻ひでお (②下町撮影日記) <つづき>
コメント、メッセージありがとうございます。
ひとつひとつ、おかえししていきますね。涼



