Eテレ「ドキュランドへようこそ!」ベールの詩人~声をあげたサウジ女性

普段、Eテレなんて見ないのだが、なんとなくテレビを付けたら、変な雰囲気の番組をやっていたので、そのまま見てしまった。
アラブ圏の人気番組「百万人の詩人」を紹介するBBCの番組だったのだが、
なんだか心を打つものがあった。
そこは完全な男社会。
その中で戦っていく女性、ヒッサ・ヒラルの話であった。

録画した番組を見ながら書いて行くことにする。
簡単にしか書けないが、優勝賞金は100万ドル。
アラブ圏では詩人はスーパースターである。らしい。
少し違和感あったが、そのまま見てみた。
数千万の視聴者の前にある母親が声をあげました。

「イスラム教を騙るテロリズムや硬直した教義に抗議します」

どうも、この国では女性が生きるのに「教義」というものが邪魔をするようだ。

彼女は死の脅迫も覚悟の上です。

この時点で、平和さにどっぷりつかっている自分にうんざりしました。

サウジ女性は運転も許されず、男性の許可なく進学も出来ません。
ヒッサ・ヒラルの声でドキュメンタリー風に構成されてます。

ヒッサ「最初はこの番組に興味はなかった。しかし、実際に見てみると、とても美しかった。そして、とても斬新でした」

その番組の冒頭では司会者が「100万軒の家が買えるほどの賞金が勝者には与えられる」という。
不動産は日本より安いようだ。
出演者はアラビア半島に伝わるナバティという詩を朗読する。


ヒッサ「出演者には女性もいたが、その詩は砂漠の民ベトウィンのナバティとはかけ離れた物でした。一般的に詩の世界には女性の居場所はないと言われています。
実際、番組に出演した女性の詩は番組の求める形式も満たしていなかったのです。
でも、ベトウィン出身のわたしには簡単な事でした。
わたしは出場者と同じくらい書ける。むしろ、わたしのほうが上手く書けるのではと思いました。
出演するにあたって、わたしは判断を夫に委ねました。わたしたちの社会では、女性の挑戦に夫や父親、親族の男性が反対することがよくあります。
男性は新しいものに出会うと、自分自身や家族守ろうとするのです。
結論としては、まずは応募して、結果は神の手に委ねようということになった。
その後、結果は合格でした。

夫はわたしに目を隠すようにいいました。安全のため誰からも非難される余地を作らないようにするためです。

全身黒ずくめであれば、批判される余地はありませんからね。」

そして、番組がはじまり、
ヒッサが朗読する。力強い口調で。

『人は言う 行き過ぎた賛辞は恥ずべきだと』

『私は思う 謙虚さは悪をはねのけるが 

不実な詩人は周囲をあおり 道を踏み外すと』

審査員は「すばらしい詩だ 本選でもがんばってください」と言った。

正直、ルールはわからないし、翻訳されているので、その詩の良さは完全にはわからないが、僕も良い詩だなと感じた。

そして、次の本選では

『ベトウィンの女性には こんな格言が伝わっています』
『男は女性関係では信用できない 求めるときは優しく 去るときは残酷』

そして、詩がはじまり

『男は守護神だと人は言う だが信用はできない』

カメラが観客席で観覧している男たちの横顔を映す。みな、神妙な顔つきだった。

『女の人生に光を与えるのが男 だが去るときは冷たく追い払う』

みんなが拍手をする。
そして繰り返す。

『女の人生に光を与えるのが男 だが去るときは冷たく追い払う
 バラを摘む若い乙女たちに 次から次へと恋をする』
『稲妻のような速さで 新しい乙女を見つける』
みんなが拍手する大衆の後ろ姿が映し出される。

『摘み取られた乙女は やがて列の後ろに追いやられ 新しい妻が 古い思い出と入れ代わる』
みんなが拍手する。

そして繰り返す。

『摘み取られた乙女は やがて列の後ろに追いやられ 新しい妻が 古い思い出と入れ代わる』

『共に過ごした生活を捨て 恋が愛と互角になる』

『純潔を食い物にする男たち』

『子供の存在が 女心の弱み 気高き母馬は置き去りになどしない』

歓声も沸きながらの拍手。
そして繰り返す。

『純潔を食い物にする男たち』

『子供の存在が 女心の弱み 気高き母馬は置き去りになどしない』

『女の悲しみは いつまでも消えず 川のように涙を流す』

『大勢の妻を持ち 女をおとしめる男たち』

『立派な家柄の女たちが どれだけ犠牲になったことか』

観客の男たちの横顔を映しながらの拍手。
その横顔は彼女の事を感心しているようだった。
そして、見事に詩を演じきった彼女に
審査員は
「ヒッサ・ヒラル 神のご加護を」と声をかけると

ヒッサも「あなたにも」と答える。

審査員「とても重要なテーマでした。男性には少々 手厳しい詩でしたが・・・」

ヒッサはその言葉にかぶせるように

「不思議なことに この詩は女性より男性から支持されます 助言をくれた親類は皆 男性でした」

審査員「良い助言をもらえたようですね」

ヒッサ「男性は論理的に説明すれば 納得してくれます」

審査員「女性とは対照的に?」

ヒッサ「いえ、そうではなく・・・困らせないで」
と答えるのがやっとだった。

観客もおおいに盛り上がり笑みを浮かべながら拍手。

2回戦
ヒッサ「今日の詩を詠みます」

『私の詩は打ち砕く 徹底的に打ち砕く』
そして繰り返す。
『私の詩は打ち砕く 徹底的に打ち砕く 世間の思想に爪を立てる』

『私は決して従わない たとえ愚か者たちが結束しても』
男たちの観客の横顔を映しながら拍手。
彼女はなかなかやるなという顔に見える。

そして繰り返す。
『私の詩は打ち砕く 徹底的に打ち砕く 世間の思想に爪を立てる』
『私は愚か者のためには書かない たとえ皆を敵に回しても』
『情熱を込めて 言葉に美しさと意味を与える』
『いかなる法廷でも闘えるように』
更に大きな拍手となる。
こんな奥が深い詩を女性が書くとはと皆が驚いていたように見える。

審査員が「ヒッサ 女性の詩人が勝つ可能性は?」と問うと

ヒッサは「女性だから優勝できたとなれば それは公平とは言えないでしょう でも男性にしかチャンスがないなら それも不公平です」
拍手が起こる。続けて

ヒッサ「優勝に値する女性なら 勝ち残るでしょう」としめくくった。
観客の女性の拍手を映しながら、その顔はヒッサから自信をもらっているようであった。
審査員は「神のご加護があれば 決勝に進めます」とあくまでも神を優先した。

視聴者投票で3回戦にすすむことになった。

3回戦

ヒッサ「聴衆の皆さん こんばんは」
少し間が開いて
「今日の詩を口にするには 大きな勇気がいります」
「大勢の人がおびえ・・・口をつぐんでいます」
審査員も緊張した面持ちです。

「社会に危険な兆候を目にしても」
審査員の顔をアップにします。
とてもはりつめた感じ。タブーに触れそうな予感。
「詩人たちは 自分のことや 身近な話ばかりを主題にしています」
「でも舞台に上がるのなら 重要な問題を語らなければなりません」
そして詩がはじまる。

『厳格な宗教令(ファトワ) 私には悪が見える 合法が非合法とみなされる時代』

更に口調を厳しくしながら繰り返す。
『厳格な宗教令(ファトワ) 私には悪が見える』

『私が真実を暴くとき 残忍な怪物が姿を現す』

『野蛮な思考と行動 怒り 見境なし』

『死の衣をまとい ベルトを締める』

観客の女性を映しながらの拍手。

そして繰り返す。

『私が真実を暴くとき 残忍な怪物が姿を現す』
『死の衣をまとい ベルトを締める』

『権威と公権力の名の下に 平和を求める人々を脅し 標的にする』
拍手。

長い沈黙のあと審査員が言う
「いつものように勇敢な詩を 披露してくれましたね 我々の社会が直面する問題 ファトワです
 過激な教義をどこまで受け入れるのか 懸念されています
 特に問題となるのが 人の命を脅かすものです」

別の審査員は
「この主題を語るには 勇気がいると言いましたね 実際 あるファトワを巡って 宗教学者を含め 大勢を激怒させる問題が起こっています
 男女の同席を禁ずるファトワを根拠に 禁を破った者の殺害を許可する長老まで出てきたのです」

そこで3回戦は終わりました。

そして、ヒッサが言うには、その後1週間は何事もなかった。

しかしながら、あの番組を見ていたあるジャナリストがその詩を記事にした途端、世界中で話題になったと。

様々な情報が飛び交う。

アラブのメディアは彼女の詩をある指導者への攻撃とみなし・・・
とか

彼女は母国の保守的な宗教指導者が女性の生活を過酷なものにしていると指摘
とか
その指導者は男女の同席を促す者を処刑するように指示しました。
とか
ヒラルさんは男女同席を支持
とか
“女性に自由を”と訴えるヒラルさん
アラブの女性も
「すごい勇気だと思います ベールをつけた女性が壇上で声をあげるなんて」
webサイトでは暗殺予告まで
過激派たちは家を探し出して殺すと言い始めました。
そしてBBCでインタビューを受けた。
ヒラルは
「私の詩はナバティと呼ばれ 率直な表現が特徴です
 私自身はイスラム教を信奉する穏やかな女です
 生まれとは関係なくイスラム教とその壮大な歴史を愛しています
 私が批判しているのは過激派と暴力的な宗教令(ファトワ)
 それに殺人行為です
 過激なファトワはアラブ社会を世界から孤立させます
 私がつけているベールは敵意の印ではありません
 過激派やテロリストを象徴するものでもありません
 顔を隠すベールには
 社会的・文化的な背景があるのです。
 過激派たちが
 この服装を自分たちの象徴とし
 悪用していることが
 誤解のもとなのです」

この取材のあと
世界中のアラブ人から感謝の言葉を受けたという。

そして決勝の放送

ヒラルの番
「今回の詩を詠みます」

『わが頼もしき詩よ 困難に立ち向かうたび』
『お前の魅力が 批評家たちを驚嘆させる』
『わが頼もしき詩よ 困難に立ち向かうたび
 お前の魅力が 批評家たちを驚嘆させる
 卑しい言葉を語らぬお前に
 聴衆は威厳を感じ 満足する』
拍手が起きる。

『日照りに苦しみ感情が干上がるとき
 私は言葉をもってお前の渇きを癒す
 恐怖と内なる暗闇に打ち勝て
 人生を悔やんではならない』
自信を持って詠った。
 あとは視聴者と審査員が判断する。

結果、優勝は他の男性でした。

審査員の得点は彼女が一番だった。

3位だった。

ヒラルは「結果に満足している」と言った。

なんだか、見ていたら、自分の考えが恥ずかしくなってきた。
小さすぎて。

最後にテロップが

サウジアラビア政府は
宗教警察の権限縮小や
女性の運転解禁などの改革に着手
しかし旅行や就労の自由など
サウジアラビアの女性には
まだ多くの権利が認められていない