久々に面白い本を読みました。
元大王製紙前会長、井川意高さんの「熔ける」です。
井川さんは、大王製紙創業家の3代目。
東大卒、20代で子会社の赤字を立て直し、42歳で社長に就任した、血筋も能力も申し分ないエリート経営者でした。
1996~97年、家族旅行で行ったゴールドコーストのカジノでバカラ賭博を体験。
100万円を2000万円に増やしたそうです。
あるとき、六本木で、マカオのカジノでVIPの接待係みたいなことをする「ジャンケット」という職業の方と知り合いになり、
2003年頃から週末マカオに通う生活が始まってしまったそうな。
やがて、より高額な賭け金が投入できるマリーナベイサンズに河岸を変え、あれよあれよという間に借金がかさみ、最終的には子会社の資金106億8000万円をカジノに突っ込み、2011年9月、会社法違反の容疑で逮捕。
懲役4年の実刑を食らったそうです。
そういえば、東日本大震災の年に、そんなことあったな~。
最近、ホリエモンさんのYouTubeで井川さんをお見掛けし。
その落ち着いた佇まいから、こんな人が106億円もバカラ賭博に溶かすって、どういうことなんだろう?と興味を持ち、拝読しました。
いや~、コレ、異世界転生物かってくらいのエンタメ性です。
とてつもないVIP客がカジノでどんな遊び方をしているのか?とか、上場企業の御曹司はどんな社交生活を送っているのか?とか、刑務所に入ってからのあれこれとか、庶民の想像を絶する世界が、ものすごく具体的に、豊富なディティールで書き込まれていて、めちゃくちゃ読み応えがありました。
確かにキラキラとした世界で魅力的ではあるんですけど、月~金がっつり仕事して、土日マカオやシンガポールで一睡もせずぶっ通しでバカラ賭博をやり続ける、そのモチベーションって何?
そこのところが、正直、よく分からなかった。
精神科で、アルコール依存症、ギャンブル依存症、強迫傾向ありって診断されたそうですが、なぜそうなったのか?
井川さんご自身も、判然としていないのでは?って感じました。
で、これも拝読しました。
こちらは2022年6月の出版。
色々吹っ切れたようで、より井川さんの本音が満載な感じがしました。
驚くべきは、刑期を終えて、もう賭博からは足を洗おう・・・とはならず、翌年2018年、ソウルのカジノに行っていること。
3000万円を突っ込んで、9億円にしたそうです。
しかし、その9億円は、次回ソウルに行ったときに、結局全部スってしまったそう。豪快すぎる。
そして2019年夏、思う存分バカラをやろうとシンガポールの島に繰り出し、滞在可能な期間ぎりぎりの一か月間バカラを延々とやり続けたそうです。
1000万円をもっていって4000万円の負け。
この勝負の後、井川さんは、バカラに飽きてしまい、やっと足を洗うことが出来たそうです。
そんなことがあるんや…。
この2冊の本で、井川さんは、厳しくも熱いお父様や同志のような弟さん、優しいお母さまのことも、詳しく描写しています。
品が良く教養にあふれ、育ちが良いとはこのことか、というような愛情に溢れるご家族です。
いったい井川さんは、何に渇いてギャンブルに狂ったんでしょうかね?
大王製紙の創業家の長男として生まれ、出来も良い。
経営者として生きていく人生以外、選びようがない。
そして失敗も許されない。
失敗しないだけの冷静さや頭の良さ、周囲に可愛がられる愛嬌も、もって生まれてきた。
人から見たら羨ましい人生だけど、井川さんにとっては「自分で選び取っていない人生」ような、どこか消化しきれない気持ちがあったんですかね?
結局、こういう家柄とか才能って、ガチャみたいなもの。
自分は本当に、運がいいのか?
いまさら自分の人生の選択では試せないけど、バカラ賭博という仮想現実で、自分を試してみたい。
百万や二百万円じゃ、人生の選択にならない。
何十億円・・・と金額が大きくなるにつれ、「生きてる」って実感がわく。
その実感を、毎週、味わわずには生きていけない。
・・・こんな感じの動機にするかな?
もし井川意高さんの人生をドラマにするなら。
そして結局、大王製紙の株を売って、約400億円の資金を手に入れた井川さんご家族は、物凄い資産家であることには変わりないのであった。
人生ガチャ…
それはそれとして、結局、恵まれた出自であろうがそうでなかろうが、人は自分で人生を選びとりたい。
そういう自由への渇望があるんじゃないかなーって思いました。
もちろんお金があった方が、自由になれる気がするんだけど、井川さんを見ると、お金があるからこそ渇くというか。
お金があるからむしろ不自由っていうこともあるのね、と。
そう思うと、人生ガチャとはいえ、等しく人間は不自由な存在である、ともいえる。
自由を勝ち取るには、全員等しく、代償を払うってことなのかもしれない。