東村アキコ先生の大ヒット漫画「東京タラレバ娘」令和を舞台にしたシーズン2が完結しましたね。
シーズン1は、「東京五輪を一人で見たくない!」と婚活に励む、2010年代が舞台のスパルタ婚活漫画でした笑。
当時アラサーだった女子たちは、2021年の今、アラフォーですかね。
失われた2010年代でしたが、当時の大人青春世代は、まだまだアグレッシブだったし、ハートも強かったのね。
一方、シーズン2の本作は2019年~2021年連載の、やっぱり婚活漫画ですが、スパルタが外れてます。
主人公は、1989年生まれのジャスト30歳、廣田令菜、フリーター。
都内の実家に両親と住まいながら、趣味はNetflix観てコンビニスイーツを食べること。
新しいバイト先は、近所の図書館。
そこでアラフォーの独身女子、森田さんと出会う。
何やら拘りの強そうな森田さんに連れられ、令菜は、生まれて初めてボーイズバーに足を踏み入れる。
そこで出会ったイイケメン店長兼オーナー、よしお1号。
従業員のよしお2号以下6号くらい?多数のイケメンに囲まれ、何かが刺激される令菜。
折しも、バイト先の図書館で、小学校の同級生に再開し、当時の自分がタイムカプセルに埋めた夢を思い出す。
「30歳になったら、家族をつくる!」
何の夢も目標もなかった令菜が、自分の夢=結婚に向け、行動を始める・・・・・!!
で、ネタバレすると、令菜はよしお2号と良い感じになりながらも、結婚相手にならない彼とは意思をもってフェードアウトする。
そこで目に入ったのが、バイタリティ溢れるよしお1号。
よしお1号さんと付き合いたい!できれば結婚も!と目標を定める令菜。
飲食店を複数経営し、会話も率直で面白く、イケメンで行動力もあるよしお1号さん。お年は恐らくアラフォー。
東村先生は、よしお1号さんがご自身の理想のタイプとインタビューで言ってらっしゃいましたが。
確かによしおさんは、現実にいたらものすごく「買い」な物件(失礼)だと思うんですけれども。
少女漫画のヒロインの相手役=ときめき供給装置としては、かなり異色なキャラクターです。
ていうか、東村さんの漫画に多いんですけれども、男性キャラのときめき供給パワーが弱い。でも面白い笑。
婚活漫画であって、恋愛漫画ではない、ということですね。
東村さんの漫画は、ふわっとしたときめきは供給しませんが、リアル社会を生き抜くための精神の鍛え方を指南してくれます。
でも説教臭くならず、「こういう展開あるわ~」っていう物語になっているので、人気があるんでしょう。そして私も好きです。
今作の読みどころは、何といっても、ヒロイン令菜の夢を横からかっさらっていく森田さんのキャラと、
よしお1号が、その森田さんと恋に落ちるリアルな瞬間を、きっちり描き切っているところ。
森田さんの、俗世をすべてあきらめたような風貌、地味なライフスタイル、東村さんの漫画にありがちなスパイシーなモブキャラ的な
立ち位置は、すべて伏線で。
森田さんの夢、「海辺の大きな自宅で、一緒にいて楽しい友達をよんで、みんなでバーベキューをやる」っていうのが、
すごい強度があって。
令菜もよしお1号も、彼女の夢に自然と参加していくことになってしまう。
この辺、めっちゃリアルですよねー。
やっぱりみんなが見て楽しい夢を、具体的にかなえていく人に、人は集まる。
そして極めつけが、令菜とよしお1号をくっつけようと、アウトレットデートへのドライバーを買って出る森田。
買いたい物が、「よしお1号の気に入りそうな洋服」=婚活服=生活実用品しかない令菜。
一方、森田は、マノロブラニクと思しき、高級インポート靴をじっと見つめている。
森田は、靴オタクで、初任給から大切に高級靴を買い集めていた。
バーベキューできる家を買ってしまったので、靴に回せる資金がない。
だから今は、観るだけで満足。・・・という森田に、
「買ってあげるよ」と言ってしまう、よしお1号。
お値段しめて10万円超。
「じゃあ買って」という森田。
・・・このシーン、漫画的なときめきもロマンも一見なさそうに見えるんですが、めちゃくちゃリアルだったわ。
「人が恋に落ちる瞬間」を描き切っていた。
エロも打算も自己陶酔もなく、ただ恋に落ちる瞬間。
東村さんすごい。
ここに人が恋に落ちる瞬間を、視覚化しセリフにした漫画があります。ぜひ読んでみてください。
じゃあ森田さんがヒロインなの?というと、やっぱりストーリーを引っ張って行動していくのは、令菜なんですよね。
彼女は、よしお1号が森田さんに行ってしまっても、傷つきながらも次に向かって行動していく。
物語の最後は、よしお1号と森田さんの結婚パーティーへ。
タラレバ娘シーズン1の3人が、通りすがりに声をかける。「お幸せに」
幸せって何?
大丈夫。たった一人を見つければいい。
ほら、森田さんのお兄さんが令菜のそれなんじゃないの?
夢をもとう。
幸せって夢をもつこと。
令菜にとって現実はちょっと苦いけど、最後は優しい言葉で締めくくられる物語。
この辺の、厳しさと甘さの匙加減が、ちょうど良い塩梅ですね。
時代の空気を描き切っているのも凄いし、
そういう物語の中で、普遍的な「恋に落ちる瞬間」も描いているのも凄いし、
ふわっと生きているように見える令菜にも意志があることをきちんと描いているのも、凄いバランス感覚。
そして、森田邸で海をバックに、バーベキューを楽しむ令菜たち。
元彼も今彼も、寝とっていった友達も、そんなこと気にせず、気のあう人たちが集う。
このリアルな多幸感。
家族もそうだし、結局、自分にとって快適な居場所を作ることが、いつの世も、人間を幸せにしてくれますね。
ハイテンションな喜びではないけど、「なんだかずっとうっすら楽しい」という状態、を提示して見せてくれます。
東村さんがずっと売れている訳がよく分かる漫画でした。