風が強く吹いている (新潮文庫)/三浦 しをん

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しをんさんの、2006年刊行の箱根駅伝を題材にした長編小説。2009年には映画化もされた人気作品です。





これ、面白かったー‼

なんでもっと早く読まなかったんだろ。





大学四年の灰二は、風呂屋の帰り、脅威的な俊足で走る万引き犯と出会う。訳あって競技から遠のいていた高校陸上の有名選手、走だった。同じ大学の一年で、金に困っていると言う。灰二は、下宿先のアオタケ荘に走を連れて行く。下宿人は、これで10人。灰二は、今まで温め続けてきた夢の始まりを下宿人たちに宣言する。「俺たちはこれから、寛成大学陸上部として、箱根駅伝を目指す」と。





で、彼らが山あり谷ありで練習し、灰二の素晴らしいコーチング術や走の才能の開花も合間って、ホントに箱根駅伝に出場してしまうお話です。





この、ある意味セオリー通りのお話を、しをんさんはお得意の粘着質な描写力で、陸上競技の細かい部分まで描き込んでおり、読み応えあります。また、灰二と走、二人の才能ある競技者が、なぜ陸上から離れていたのか?その葛藤も、基調低音でなり続けています。



なぜ人は努力するのか?なぜ走るのか。

極めてストレートなテーマが、読者を最後の1ページまで離しません。



といいつつも、この物語が終わるのが、読みながらもの凄く残念だったのも事実。早く先を読みたいのに、箱根駅伝がこのまま永遠に続けば良いのに…でもそしたら灰二の脚が…というジレンマ。長編小説かくあるべし、のお手本のような作品ですね。



私がしをんさんの描写で好きなのは、冒頭、走と出会う前の灰二が銭湯の湯に入り、剃りすぎたヒゲのあとが湯に染みてちりちり痛い、と思う描写。



似たような描写が「まほろ駅前多田便利軒」にもあって。多田が、健康おたくのヤクザに事務所に押しかけられていちゃもんつけられながら、タバコが吸いたいけど吸えない、仕方ないから歯の裏のヤニを舌でなぞって耐えた、という所。





どちらも、なんてことない生理現象なんだけど、本人にしか味わえない感覚で。ゆえに、小説の中の人が、急に生きている人に感じられてくると言うか。



単純に誰々はこう思った、みたいな描写でなく、敢えて感覚的なことをぶっこんでくる下り。こういう描写が、しをんさんらしいな~と。小説として凄く好き。



で、最後の箱根駅伝での、10人分の内面描写は、流石の面白さですよ。

正直、それまでは灰二と走だけ主人公、って感じだったのが、ああ、この10人分のドラマがあっての駅伝小説だったんだな、と。



特にわたくしは、ジョータとユキの下りが読み応えありました。



そしてアンカーの灰二。

なぜ彼は、今更ながらの陸上部、ましてや箱根駅伝に皆を巻き込み、目指したのか?



そこに山があったから。足が早かったから。の体育会的ノリとは一線を画した理屈や葛藤がありながらも、最後は体育会的ともいえる「そこに皆がいたから」的な出会いの必然に帰ってくる爽やかさが、ホント見事な作品でした。



映画版では、灰二役が小出恵介くんだったらしいが、マジぴったりだわー。彼ほど屈折とスポーツマン的爽やかさという、相反する要素を体現してる役者はいない。という訳で、またこの世界観にハマってしまいました。



しばらく三浦しをん祭りを継続すること決定。