スペードの3/講談社

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朝井リョウさんの2014年3月刊行の本作。

朝井さんの作品は、「桐島、部活やめるってよ」「もういちど生まれる」を既読してます。


こちらが3冊目なんですが、一番面白かった気がする。「スペードの3」。


タイトルのモチーフは、トランプゲーム「大貧民」で、無敵のジョーカーが出た時だけ、効力を発揮する「スペードの3」。
それを使うことなく年取っていく女性達の受け身な生きざまを重ねて、象徴的にタイトルにされてます(多分)。

こう書くと、何かひどい感じですが、実際、陰惨なお話です(笑)
朝井さんて、凄いネチネチした性格のヒトですね(←褒めてます)。
そのネチネチさを、今作では、包み隠さず直球勝負で書かれていて、潔さに好感もちました。



お話はですねえ。
宝塚(と思われる架空の劇団)出身の、元男役、現在ミュージカル俳優「つかさ」のファンクラブ、「ファミリア」。

そこで学級委員さながら、まとめ役に就任しているアラサー「美知代」。

途中入会してきた、美知代の小学校の同級生、「アキ」。

そして元男役、「つかさ」本人。

この3人を主人公に、3章のオムニバス形式で描かれ。
美知代とアキの小学校時代、また、つかさのヅカ学校時代が、現在と交互に描かれて行きます。



テーマは朝井さんのライフワーク(?)の、スクールカースト。

いわゆる小集団の中の、人間関係の眼に見えない序列。

それがどうやって形成され、増殖し、
集団が解体してもそこで培われた「キャラクター」が本人のその後の生き方に与える影響、
みたいなものが、ここでも延々と描かれています。

特に本作は、学校を出た後の「現在」と、学校にいた「当時」を、行きつ戻りつして描いているので、テーマがより鮮明になったかと。

また、朝井さんお得意の「自己陶酔型繊細描写」(←褒めてます)が、今回は割と少なめで、代わりに3人の主人公のキャラクター描写が充実しており、そのお陰か(?)、リーダビリティが半端なかったです。

たぶん、主人公がそれぞれに「イケてない」属性の人間たちだったので、その「イケてない」世界観と、いつもの自己陶酔型繊細描写の相性に、朝井さん本人が違和感を覚え、調整されたのではないかと。

そういう部分も好印象でした。


で、本作品でもテーマになってる、「スクールカースト」という名の、小集団的人間関係における眼に見えない序列について、ですけれども。


そういう繊細な関係性がどうやって生まれるのか、朝井さんの作品は、ほんと丁寧にリアルに描かれているので、このテーマにおいては、最先端の描写になっていると思います。

で、そのスクールカーストの中で、他人のリアクションや評価を得ることが行動の目的となり、「受け身」な生き方しか出来なくなってしまった人々が、その結果として「イケてない」人々になり下がってしまっている様子が、実に淡々とリアルに描写されてます。

という意味では、職業としてのあり方がいわゆる「受け身」である「俳優」という存在を、第3章で主人公にもってきたところが、潔いなと。

というのもわたくし、第3章は、美知代とアキの小学校時代の憧れの存在、カースト最上位の「亜季」が主人公になるのかな?と思いきや、「つかさ」だったことに、新鮮さを感じまして。


朝井さんの描きたいのは、「スクールカースト」そのものじゃなくて、どうしたってある意味「受け身」で、集団の中で「演技」していくことが運命づけられている「人間」そのものを、「つかさ」という「男役やってたミュージカル女優」の姿を通して、描きたかったんだな、と腑に落ちたからです。


「受け身」な存在で「演技」をし、「性別」さえも与えられた役割である人間という存在。

「スクールカースト」を、そんなの思春期の自意識過剰が作りだしたガラスの壁でしょ?と笑うのは簡単、つうか雑で。

仕事=得意なこと、という意味でも、持って生まれた性格とか能力で道筋が決まるし、社会で生きている以上、思ったことそのまんま丸出しして、動物みたいに生きていける訳もなし。

男女の別に至っては、生まれる前に2拓で決まってます。決定権は人間にはなし。

そういう、「神様の予定調和」の世界で、どうやって人間は、「自由に」「意志を持って」生きられるのか?

つーとこまで、踏み込んでいくテーマですよね「スクールカースト」。



美知代はこてんぱんにプライドを叩きのめされてから、始めの一歩を踏む。

「えざきさん」と自分を呼び続ける同僚に対し、「私、エサキ、なんです」と。

「わからないですよね、私から言わないと。自分から動かないと」。


3人の中で、一番時間が止まっていた感のある美知代の踏み出した「始めの一歩」が、一番キレ味鋭く、爽やかに感じられましたよ。



わたくし自身は、コレ読んで、「スクールカーストって大変だな」と他人ごとのよーに感じてしまう、人間関係には雑なタイプなんですが。

それでも会社や狭い集団の中で与えられる役割、2拓の結果である女性としての役割の中で、どんづまりになりそーなことは、容易にありえます。人間である以上。

そんなとき、
「わたし●●じゃないんです、●○なんです(あなたにとっては小さいことでも)」
と、美知代のよーに、勇気をもって淡々と、でも結果は気にせず自分から動けるという身軽さを、常にもっておこーよ自分。と思いました。改めて。