楽園のカンヴァス (新潮文庫)/原田 マハ

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2012年刊行の、山本周五郎賞受賞作です。



本屋大賞にもノミネートされてましたね。



評判にたがわず、なかなか面白かったです。





倉敷市、大原美術館。

監視員をやっている早川織絵は、父親が西洋人だったことを伺わせるハーフの娘と、年老いた母と暮らしている。



その織絵が、ニューヨーク近代美術館のチーフキュレーター、ティム・ブラウンから、ルソーの「夢」という絵の貸出に関わる交渉窓口に、突如指名される。



二人は、16年前、バーゼルで、世界的に有名な絵画コレクターから、一枚のルソーの絵の真贋判定を依頼される。

織絵は新進のルソー研究者。

ティム・ブラウンは、ニューヨーク近代美術館のアシスタントキュレーターだった。



真贋のヒントは、依頼人から渡された一冊の本。

そこには、50才を過ぎて画家の道を進もうとするルソーと、当時キュビズムを生み出す前夜のピカソが登場する、ある物語が描かれていた。





結構複雑なお話ですが、16年前のバーゼルと、作中作のルソーとピカソの物語がカットバック風に描かれ、リーダビリティが半端ない。



ま、いろいろ穴はあるんですが。



まず、織絵とティムの人物造形に余り魅力が無く、特に織絵は、キレモノの研究者って設定なんだけど、周りにそう言わせる形で表現してて、ちょっと白ける。



中年になってからの織絵も、周りの人に気を使わせる、難しい人ってキャラクターで、そういう設定にする必然性もよく分からないし。



絵画の真贋判定を、一冊の本から考える、っていうゲームみたいな依頼を、現役のキュレーターが乗るかな?…とか。



…と、色んな突っ込みどころはありますが、それらを凌駕する面白さがあります。そこが凄い。



それは、作中作のルソーとピカソの時代の物語なんですが、これ出色の出来だわ。



ルソーが年老いてから、生活を切り詰めて絵画の道に邁進していくさま。

周囲からは軽い嘲笑を受けていたルソーを、早くから見抜いていたピカソ。



ピカソは、塗りつぶし様のカンヴァスとして売られていたルソーの絵を、わざわざ買い求め、後生大事に手元に置いていた。



生前は、日曜画家レベルの扱いしかなかったルソーは、左足の壊疽が悪化して、66才で死去する。



そして、今でも、ルソーの画家としての評価は、必ずしも定まったものではない。



…という、実にミステリアスな物語が、臨場感たっぷりに描かれていて。



原田マハさん、自身もキュレーターであり、専門知識を物語に昇華するのが、凄く御上手ですね。





現代の織絵とティム・ブラウンは、やや魅力レスでしたが、彼らはある意味、ルソーとピカソの物語の、脇役ですからね。



絵画の世界と、小説の虚構を、行きつ戻りつして読み進めていくのが、何とも刺激的な読者体験でした。