交通事故事案で,刑事記録を調査する際,いつも気にするのが「起訴になっているか,不起訴か?」ということです。加害者が起訴された事案では,供述調書まで開示されるのに対し,不起訴の場合基本的に,実況見分調書しか見ることができないからです。

そして,被害者の負傷が大きい,加害者の過失が大きいといった場合,起訴されている可能性が比較的高いといえます。

 

もっとも,刑事事件の被疑者を起訴するかどうかは,検察官が,その被疑者の「性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情状」にかんがみて決するとされており(刑訴法248条,起訴便宜主義),過失割合や負傷状況だけで必ずしも起訴・不起訴が決まるわけではありません。

興味深いところでは,最終的な判決では,過失割合が被害者:加害者=1:9となり,被害者は相当の重傷を負い,後遺症もかなり残った事案であったにもかかわらず,加害者は不起訴(罰金にもなっていない)というケースがありました。

このケースでは,相手方弁護士は過失割合についてかなり争ってきた記憶があります。つまり,事故状況・双方の過失割合を確定するには,かなりの議論を尽くし,様々な資料を吟味する必要のあったケースだったといえます。

ですから,起訴不起訴を決める段階で,検察官は被害者の過失が相応にあるかもしれないと判断したのではないかとも思います。被害者の方が,(スピード違反とまではいえないにしても)相応のスピードが出ていたことも考慮要素の一つのように思われます。

過失運転致死傷の9割が不起訴となっている背景には,このような事案が少なくないのでしょう。