交通事故の被害者の方などが,六法や「赤い本」などを見て,ご自分の損害額を算出して「これくらいの補償額になるはず」といってこられることが時としてあります。ご自分の損害ということもありますから,相当熱心に調査され,理論的には間違いのない結論を出されていることも珍しくありません。

しかしながら,そのような金額が最終的な判決や和解の額になるかといえば,必ずしもそうではありません。例えば,逸失利益について,事故前の年収×労働能力喪失率×満67歳までの年数(あるいは平均余命の2分の1)というのが「公式」ですが,実際には,喪失率を途中から逓減させることや,60歳くらいから後は基礎収入を減じることも少なくありません。

 

交通事故に限らず,いろいろな分野でも,理屈どおり・公式どおりの結論が出るわけではないケースが多々あります。同業の先輩方の中には「法律論や六法の知識は捨てて考えなさい」とおっしゃる方もおられるくらいです。

 

しかしながら,考えてみると法律どおりの結論であればあまりにも杓子定規で酷に過ぎること,あるいは感覚的に何かおかしいことも決してまれではありません。法律の規定は一応の目安として,程よい解決は何かを個別的に考えるのが私たちの仕事なのでしょう。

そういう意味からも,司法研修所教官や先輩弁護士,実務経験のある教授方からしばしば教わってきた「二つとして同じ事案はない」ということは,実に意味深長であると思えます。