娘が俯いて帰ってきた。
いつもならうるさいくらいに元気な声を響かせてくれるのだが、学校で何かあったらしい。
おやつを食べる頃には何事もなかったようにケロッとしていたが、どうやら50m走のタイムがクラスでビリだったようだ。
僕も遅かったし、嫁も運動はダメだった。
まぁ運動会は負けても一生懸命やればいいさ。
ここでは基本将棋の事しか書いていないが、将棋はあまりやっていない。
割合で言うと娘97:将棋3くらい。
嫁があまり出たがらないので、ふたりで出掛ける事が多い。
毎週くらい旅に出ているので書くと切りがないのだが、書く時間もないし、書いた所でこの楽しさを表現する技量もユーモアも僕にはない。
久しぶりに支部に顔を出した。
もう義理で行ってるようなものだが、義理というものは果たさなればいけない。
20分前に着いたが、すぐにいつものじいさんがやって来た。
謹んで王将を献上し、先手を頂く。
2手指ししようが、馬が真横に突っ込んで来ようが、僕には何も見えない。
目が覚めた時には2敗していた。
ノルマ達成の瞬間である。
最近エリート校に通う子が急激に力を付けてきた。
勉強のできる子は必ず強くなる。
あまりに普通過ぎて面白くないが、自明の理なのでしょうがない。
じいさんと子供の対局を観戦していると、知らない女性が僕の対面に座った。
一目、淑やかで綺麗な子だった。
誰かのお母さんかと思っていたら、偉い人が来て8枚落ちで教えてあげて下さいと言われた。
こんな人が将棋を習いに来るなんて、藤井君の影響力はすごい。
話してみると、ここの初心者講座に3ヶ月ほど通っていたのだと言う。
4手目に角を上がったので少しは指せるのかと思いきや、その後桂馬をぴょんぴょん跳ねてきて、あっという間に僕の必勝形となった。
この3ヶ月、いったい何を教えられたのか不安になったが、金を1枚減らして端攻めをレクチャーした。
彼女は見事に何も知らなかった。
僕は訊いた。
「ぼぼ、ぼうぎんってしってる……?」
「あ、なんか聞いたことあるような……」
謎の3ヶ月である。
3手詰めの本を持って来ていて、たくさん書き込みがしてあった。
真面目な子なのだ。
そんな子が、駒を取るときに両手を使って指したのだ。
もうちょっとちゃんと教えてあげて欲しい。
いやほんとに……
便宜的に「教える」という言葉を使っているが、僕が日常でこの言葉を使う事はまずない。
特に指導者なんて言葉には虫酸が走る。
今年亡くなった祖父は、教壇を外した教師として界隈では有名だった。
教師と生徒の垣根を取っ払ったのだ。
教えるのではなく、共に学び、分かち合うのである。
1度も怒った所を見た事がない。
温厚で物静かで、そして辛抱強かった。
そんな祖父の背中を見て僕は育った。
……にしては僕は怒りっぽいし、ましてや辛抱強くもない。
じいちゃんすまん……