先日、奨励会員のY君が3段リーグ入りしたのを耳にした。

早くからポスト藤井と目される天才少年であり、僕が将棋を再開した頃には知らぬ者無しの有名人であった。

そんな規格外の大天才Y君であるが、何を隠そうOさんと少なからず因縁があるのだ。

それはなんてことのない、一支部の大会での出来事だった。


その日小学2年生のY君は、大会に出るため某支部を訪れていた。

僕はその場に居なかったので、お父さんと来たのかそれともお母さんか、はたまたそれ以外の誰かか、一人で来たのか知らないが、とにかく少年はここで一番になってやろうという思いでやって来たのだ。

小2と聞くと随分幼いように思えるが、数ヶ月後のさなる杯では、上級生を軒並なぎ倒し府代表になっている。

大会でY君は順当に勝ち上がり、決勝へと駒を進めた。

相手を見てY君はいささか驚いたかもしれない。

いざ決勝の舞台に上がってみると、対面に座ったのは齢70を迎えるおじいさんだったのだ。

そう、Oさんである。


戦型はY君得意(?)の横歩となったが、力の差は歴然で、あえなくOさんの軍門に下った。

悔しかっただろうが、元よりお祭りのような雰囲気の大会である。

記念写真でY君は、Oさんの横でいたずらっぽい笑みを浮かべている。

これだけ見ると、おじいちゃんと孫にしか見えない。


翌年もY君はやって来た。

正直、奨励会入会を控えた彼が出るようなレベルの大会ではない。

ではなぜ来たのか?

Y君は思った。

これから続く長い将棋人生、その門出ともなる

プロ棋士への第一歩、奨励会。

いくら相手があの全国ベスト8の超強豪Oさんといえ、負けたままでいいのだろうか?

いいや、いいはずがない。

僕は偉大なOさんを乗り越え、一片の悔いも残さず奨励会へ行くんだ!

僕は負けない!!

負けるわけにはいかないんだあああ!!!


しかしその日、Oさんは現れなかった。

Y君は圧倒的な強さで優勝したが、記念写真には能面のような顔で賞状を持つ少年が写し出されている。


Y君とは一度だけ話した事があるが、そこまで強い印象は残っていない。

一人称が某人気YouTuberみたいなのがある意味一番のインパクトだった。

1級か初段の頃だったと思うが、同じ会場に居合わせたので僕から話しかけたように思う。

少し雑談したあとに、僕の事知ってる?と訊くと、意外にも知ってるという返事がかえってきた。

僕は何年か前に、Y君の通う教室を覗きに行った事がある。

寒かったので上記の大会後だろうか、丸々とした3年生のY君は、横っ腹にホッカイロを貼り付けて対局していた。

一度も目が合わなかったし、そもそも覚えてるわけがないと思い、知ってるかと訊いてみたのだ。

しかしYは、続けてはっきりとこう答えた。


「急に変なおっさんが入って来たから覚えてたたw」


Yよ、君が棋士になり、いつか藤井聡太からタイトルを奪取したとして、僕はこの時の言葉を忘れる事はないだろう……