それは友人Fから聞いた話

Fくんはバンド生活も長く

 

不規則な夜勤のバイトなどをかけもちしながら

 

都内の古いアパートに住んでいました。

 

Fくんがよく夜勤からかえってくる朝方に

 

窓を見ると

 

向かいの窓から

 

若いお母さんらしき人と

 

幼稚園くらいの子供の姿が見えたんだそうだ。

 

幼稚園の送り出しをするのか

 

それにしても

 

「早くしなさい」というような

 

ヒステリックな声が10mほど離れたFくん宅にも聞こえてくるんだそうです。

 

 

それにしても

 

少し綺麗なお母さんだったのもあり

 

夜勤終わりの疲れの癒しのような気持ちで

 

カーテンが開いてる時には

 

よく二人の姿を見たんだそうです。

 

バンドが忙しくなってきたのもあり

 

 

しばらく

 

その親子のことも忘れて月日が流れていきました。

 

久しぶりに夜勤に入って

 

身体も心もくたくたになった

 

 

そんな朝方

 

「そういえばあの親子でも見てみるか」

 

と思い立ち

 

窓際にたつFくん。

 

目的のお母さんがいました。

 

いいえ

 

こちらを見ているようでした。

 

ぼーっとしたその表情は

 

とても以前の元気さを感じません。

 

そういえば

 

子どもの姿もありません。

 

ただ一人でうつろに窓の外を見ているようでした。

 

 

Fくんはなんとなく

 

見てはいけないものを見たかのようでもやもやした気持ちになったとのことです。

 

また次の日も

 

そのお母さんはこちらを見ていました。

 

やつれてうつろな表情に恐怖を感じたFくん。

 

きっと何かあったのだろう

 

俺には関係ないや

 

ともう窓から彼女を見るのはやめようと心に誓いました。

 

そうしてしばらく月日がたち

 

その日は来ました。

 

 

夜勤から帰ったFくん

 

なぜかちょっとあの人はどうなったか見たいと

 

思い立ち

 

カーテンの隙間から見てみると

 

なんと

 

こっちをじーっと

 

 

見ているではありませんか。

 

意味深なその表情に

 

Fくんは

 

誘惑されているような気持ちになったそうです。

 

 

しかし違和感に気づきます。

 

いつもの窓枠に肘をつくような位置ではなく

 

随分上から見ているなあ

 

と。

 

なんだか

 

ひものようなものが頭のうしろに見えていたそうです。

 

それにしても

 

今日は随分こちらを見ているし

 

さっきと違って

 

笑いかけてきているようでした。

 

 

なんだか

 

ぞくっとくるような気持ち悪さを感じたFくんは

 

カーテンを閉め

 

今見たことを忘れようと

 

布団にもぐりこんだのでした。

 

 

そうして

 

夕方

 

サイレンの音で目が覚めました。

 

窓から見ると

 

なんと

 

例のお母さんの家には

 

ブルーシートで囲まれているのです。

 

物々しい紺色の服をきた警察らしき人の数。

 

 

これは何か事件があったのか

 

と感じずにはいられませんでした。

 

 

近くまで行ってみることにしたFくん。

 

 

アパートの前には野次馬の群れができていました。

 

その中のおばさんが話しているのが聞こえました。

 

「自殺らしいわよ」

 

「なんでも離婚して子供さんを

 

もっていかれてから

 

鬱状態だったみたい。かわいそうにね」

 

「首吊りだって。こわいわねえ」

 

「朝方だったそうよ」

 

と。

 

 

そうです。

 

あの時の妙に高い位置から

 

こちらを見ていたのは

 

紐のようなものは

 

ロープ・・

 

しかしおかしいではないですか

 

 

首をつると

 

顔は下を向くっていうではありませんか?

 

 

彼女はまっすぐにこちらを

 

そして

 

最後は

 

微笑んでいたのを

 

Fくんは

 

青ざめながら

 

楽屋で話して聞かせてくれました。

 

 

私たちのバンドメンバーが

 

そんな話を聞かされてしまったせいか

 

その日のライブの出来は

 

最悪でしたがね、、