美しい木目と優れた調湿機能に、丈夫さを兼ね備えた「大阪泉州桐箪笥(だんす)」。数百万円にもなる高級品だが、桐はほかの木材より燃えにくく、
着物などを火災から守ってくれることから、古くから嫁入り道具として重宝された。桐箪笥が完成するまでの工程を知ろうと、大阪府岸和田市の「田中家具製作
所」の工場を見学した。(文・藤谷茂樹、写真・沢野貴信)
◆素材乾燥に2年超
工場の屋外には、高さ4~5メートルはある木材がずらりと並んでいる。これらは日本産や米国産の桐材で、すべて自然乾燥中だ。田中美志樹専務
(47)は「厚さ1センチほどの三分板でも半年、3センチはある一寸板では2年以上乾燥しています」と教えてくれた。素材がそろうにも数年かかるのだ。
工場に詰める職人は10人ほど。箪笥1棹(さお)は1人の職人が責任を持って作り上げていくため、職人たちは工場の各所で、それぞれの工程を進めていた。
まずは木材から切り出す「木取り」から始まる。3メートル30センチの板が丸ノコギリの機械にかけられると、いとも簡単に2つに分かれた。だが、乾燥中の割れなどがあり、このままでは素材として幅が足りないという。
ここで、木目を合わせ接着剤で貼り付ける「矧(は)ぎ加工」を行う。ハタガネで3カ所ほどを押さえ、乾くのを待つ。1つに合わさった木材にカンナをかければ、美しい木肌が露出し、箪笥の素材に仕上がった。
◆ノミとカンナの技
ここからは、職人のきめ細かな作業に入る。箪笥はくぎなどを使わず、すべてノミで作った凹凸をかみ合わせた木組みで形作っていく。
木材に独特の凹凸の型で印を付けると、それに沿ってノミで削る。引き出しなどの角に用いられるのは「蟻組」と呼ばれ、逆さの台形をしているのが特徴的だ。引き出しの前面部分は、その木組みが見えないよう、「包蟻組」というさらに複雑な木組みが使われている。
引き出しや箪笥本体が組み上がっても、この段階では引き出しは本体に収まらない。職人の粟田敏幸さん(35)は「引き出しは本体の枠より数ミリ大きく作っています」とカンナで引き出しの側面を削りだした。
桐箪笥が優れた調湿性を発揮するには、素材の桐が湿気を吸収、放出して一定に保つだけでなく、引き出しの気密性も必須。粟田さんは「カンナ1回か
けただけで、引き出しの滑り具合など使用感はぐっと変わります。職人の腕が問われる仕事です」。引き出しの取り出しやすさもここで決まる。1ミリ未満の調
整。こうした巧みな技の集積で、経済産業省の伝統的工芸品にも指定された。
◆完成!堂々の風格
引き出しを収めた桐箪笥は高さ173センチ、幅128.5センチ、奥行き46センチ。しかし、まだ木肌は白く、柔らかな印象だ。色を塗る仕上げが必要となる。
カルカヤの根を束ねたウズクリという道具で、開戸や側面の木目を浮き立たせ、黄土色の砥(と)の粉を塗る。これを数回繰り返すと、赤みがかった茶色が力強く映えていた。
「角が丸くなっているのは胴丸型と呼ばれ、泉州の特徴です。幅広く重厚感が出ます」と田中専務。角張った洋風のチェストなどとは違い、堂々とした風格を携えているのが分かる。
引き出しの取っ手など金具が取り付けられて完成だ。完成品を前に、田中専務は「箪笥作りは江戸時代に農家の副業として始まったといわれています。
いいもんを作ろうと努力してきた歴史が積み重なっていますよ」と話した。何代にもわたって使えるという桐箪笥の秘密を知った思いがした。
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