
『彼はそれまでなおしばらくのあいだは、麾下の部隊を縦隊に組んだままで引率していたが、
そのころ右翼を回りこもうとしていた敵[騎兵隊]に当たらせようと派遣した支援の騎兵隊が、
夷狄側歩兵部隊の戦列前面に、ある程度の切れ目を生じさせたと見るや、彼はその切れ目部分
へと馬首を回らせ、ヘタイロイ騎兵隊とその場に配置されていた歩兵部隊の一部とで、
楔型[の突入隊形]をつくらせるなりこれを手勢に、鬨の声をあげてまっしぐらにダレイオス当人の
[占位する]方向へと突っ込んだ。』
(アレクサンドロス大王東征記、アッリアノス著、大牟田章訳 岩波文庫より引用)
ガウガメラの戦いの決定的場面である、アレクサンドロス大王の楔陣形による、
ペルシア軍中央と左翼の切れ目への突撃場面です。
映画でも迫力ある映像で再現されていました。
ただペルシア軍に切れ目を生じさせるための、マケドニア軍右翼による陽動のための機動を
アレクサンドロス大王自身が率いていたかのように描いていたのは史実とは異なります。
正確には、メニダス指揮下の傭兵騎兵部隊です。
またパルメニオンがマケドニア軍中央の重装歩兵を、
率いていたかのように描いていたのも史実とは異なります。
関心のない方にはどうでもよい話かと思いますが、
アレクサンドロス大王の敵陣突破とパルメニオンとの連携をどう描写するかは、
アレクサンドロス大王の軍事的才能をどう評価するかの一里塚になっているのです。
スキタイ平原を疾走するマケドニア騎兵、
ヒンドゥークシ山脈に佇むアレクサンドロス大王、
インド戦象部隊との対決などの映像面は、
文章でアレクサンドロスの生涯を読んでいた者には、
大変な満足をもたらすと思います。
ただ、この映画全般にいえることですが、
前提知識がないとやや理解しずらい描写が多数あります。
晩年のアレクサンドロス大王は、フランス戦役でのナポレオン、
ベルリン陥落直前のヒトラーそのものでした。お決まりの、
「もう、あんたの誇大妄想にはついていけません。」という部下の反乱です。
「偉大」または「誇大妄想」といわれる人物に振り回される人々の
姿を、オリバー・ストーン監督は、アレクサンドロス大王の愛憎を絡めて、
映画の後半3分の2を使って丁寧に描写します。
ガウガメラの戦いを含めペルシア征服が前半3分の1であっけなく達成されたので、
この後どうなるのかと思いましたが、監督は「偉大」さと「誇大妄想」の分岐点を
丁寧に描いてました。
そして、映画最後の、アンソニー・ホプキンズ演じる老いたプトレマイオスの独白が、
「偉大」といわれる人物に対する監督の考えなのではないかと思いました。