「信長とは何か」(小島道裕著・講談社)を読みました。

『当時の日本の社会は、よく言われるように戦乱で疲弊しきっていたわけでは決してなく、
むしろ社会に力がみなぎって経済が非常な勢いで上向き、新しい社会的な枠組みを作る気運が
湧き上がっていた。戦国時代とは、旧い体制ではこの状況にもはや対応できず、それに代わる
さまざまな方向性が生まれていた時代なのであり、信長はそこに登場して一つの道筋、
すなわち選択肢を作ったと見るべきだと思う。その選択肢が、はたしてどのような
意味を持っていたのか・・・・』

との問題提起に始まり、

『そこで、最後に思い至るのが、そもそも「天下統一」の戦いなどというものは必要だったのか、
ということである。』
『戦争によらなければ天下は統一できないと考えるのは、あくまで一つの考え方であり、
戦争を起こし続けることによって権力を集中しようとした信長が広汎な支持を得ることは
そもそもむずかしかった。』
『「剣によって立つものは剣によって滅ぶ」という言葉が、信長にはふさわしいと思われて
ならない。』
『はたして信長の敷いた路線以外に、日本のたどる道はなかったのか・・・』

と締めくくられています。

アレクサンドロス大王のペルシア遠征、カエサルのガリア遠征、
チンギス・ハンの世界征服、ナポレオンのヨーロッパ征服のどれをとっても、
傑出した個人と歴史的状況の産物であって、他の選択肢があったことは容易に想像できます。
その当たり前のことを、著者の丹念な仕事によって、信長についても気づかせてくれる本でした。

ヘーゲルの「世界精神」やカーライルの「英雄論」的な発想の書物が多い中、
信長については、この本がベストとなりそうです。

ただ、多様な選択肢の中から、結果的には信長が天から選ばれたのには
人智を超えた運命みたいなのがやはりあるのだろうかとも思ってしまう。
歴史は本当に面白いです。

信長についての主要論点をコンパクトに網羅している点、
筆者の的確な文献・地図・画像の引用によって、信長の肉声、当時の社会が
リアルに頭に入ってくる点でも、この本がベストとなりそうです。