運命の赤い糸なんて云うと

ロマンティックな恋愛を想像するけれど

そんな綺羅びやかな人間関係とは縁遠い

洞窟の様な場所で掃除をしている最中



不意に運命の糸とは

誰かと誰かを繋ぐのでは無く

短い糸切れのように

ふわふわとそこら中を

漂っている埃にまみれた

誰かの髪の毛のようなもの

なのではないかと思った


清掃作業員の習性か

ただ単に個人的に

目線が下向きなだけなのか

常に床にゴミが落ちてやしないか

あたりを見回しながら歩いていると

長い髪の毛が

落ちているのに気づいて

いつも拾おうか見過ごそうかと

迷うものだから

落ちている

髪の毛には敏感なのだ


レシートや紙コップなど

そこにはおよそ似つかわしく無い

何かがあれば箒と塵取りで

集めるけれど

髪の毛はそうそう目立つものでも無いからと

面倒臭がりな自分と

職務怠慢だと戒める自分が

葛藤している間

ずっと落ちている

その髪の毛を見つめながら

ゆっくりと歩くのが常だから

自然と観察してしまう



よく見るとその髪の毛の周りに

細い糸屑が纏わりついている事に気づき

このまま放って置けば

その内に阿寒湖の毬藻みたいには

ならないものかと想像すると

少しだけ見てみたくなる



頭の中に浮かんだ毬藻が

疲れのせいなのか

作業中の息苦しさと相まって

人が生きていると

望むとも望まずとも

色んなしがらみに雁字搦めになりながら

過ごさざるを得ないその現実を

具現化したみたいに思えてしまい



この逃れられない宿命と

糸屑にまみれながら漂う髪の毛が

心の何処かで繋がり

この腑に落ちた感覚と結ばれ

運命の糸とは

この床を漂う髪の毛なのではないかと

思い至るが

纏わりつく糸屑にも

その可能性はあるのではと

また心の中で思考が始まる始末



長い髪の毛に

洋服の細い繊維が

風に漂いながら

少しづつ絡み合い

数日見過ごしてしまうと

密度の薄い玉になる



大概はその状態になると

視覚で捉えられてしまうから

掃き取るのか

もしくはそれをしなければ

誰かしらからの指摘を

受けたりするから

それ以上その玉糸は成長しない



ただもしも

あのまま一年ほど放置すると

ホントに毬藻になるのかを

試してみたい気もする



繊維同士は元々

しっかりと編まれた糸だったり

ダウンジャケットの綿だったりと

洋服の一部だった訳だから

案外と相性が良くて 

そこに風の悪戯と静電気が加わり

ふわふわと優しく

絡み合うのかもしれない



もしも運命の人などが

どこかに居るのだとしたら

赤い糸で仕立てられた

真っ赤な出で立ちで現れてくれると

すぐに気づけるのにと

理由のない妄想が止まらない



自分の性格と制服の見た目は

オオカミというよりは

どちらかと言えばオカピだと思うが

上手く街の景色には

溶け込めてはいないのだから

こちらの姿も目立って

案外とお互いを

見つけやすいかもしれない