電車を降りても、登山の準備状況が気に掛っていました。
登山は、既に計画通り始まっています。
足らないものが有っても、既に手遅れです。
そのような気持ちで、独り富山駅の改札を出る。
下山口の折立にマイカーを停めてきました。
明日、大町にてお客様と合流です。
今夜は久し振りに野宿でもしようか。
街を離れて心当たりを付けていた温泉場まで来ました。
時間は有るので、のんびりと温泉浴で心の緊張をほぐすことにしました。
岐阜県の栃尾温泉 荒神の湯です。
ベンチに寝転んで居ると、沢の音や車の行き交う音が聞こえてます。
そろそろ寝る場所を確保しないといけません。
今夜は適当な場所でゴロンとしたい気分。
コンロで薄味のコーヒーを沸かし、明日から始まるガイド仕事の最終確認をする。
蚊が居ないので居心地満点でした。
スーパーで買ってきたトマトを一つ食べて、またゴロンとベンチに横になる。
こんなフーテンみたいなことをしている自分は、
一体全体幸せなんだろうか・・・そんなことも思う。
明日の朝は、残りのトマトと菓子パンとコーヒーと決める。
8月11日
松本駅に着いて大糸線を確認すると、あまり時間がない。
飛び乗った電車では、座ることが出来ましたが、結構乗客は多かったです。
段々と信濃大町駅に近づいている。
信濃大町駅で今回の仕事は始まるので・・・、
駅が近くなると若干の緊張も感じる自分が居ました。
予定の電車が到着し、sさん、kさんご夫婦が順番に開札から出てきて合流となる。
簡単なご挨拶と紹介をしてタクシーにて七倉ダムへ向かう。
七倉山荘は綺麗な宿でスタッフの対応も良く、夕食は十分な量のバーベキューです。
今回は自分を入れて4人での登山であり、私はガイドとして明日からの6日間無事登山を成功出来ることを祈るのみでした。
8月12日
高瀬ダムまでタクシーで入り、実質の烏帽子岳のブナ立て尾根登山口までを歩く。
スタートして私も緊張しているせいか、朝早で元気があるせいか、トンネルでは足が速くなってしまいます。
後方にはクライミングエリアで有名な唐沢岳幕岩の岩壁も見えています。
いよいよ急登の烏帽子岳ブナ立て尾根です。
日本三大急登、そして北アルプス三大急登のブナ立て尾根ということで、参加されている皆様が心配しながら登っていることと思い、ゆっくり、ゆっくりと登る。
「お先にどうぞ!」
・・・・
「私達の登山は長丁場ですので・・・追い越されても 追い越すな!
長丁場の鉄則を守ってゆっくり登りましょう!」
たとえ高さ20センチの段差も、迂回して回り込み、無駄なエネルギー消費を避けてゆっくりと登って行きます。
汗はタラタラと出ていても、息が上がらないようなペースを保って登って行きます。
登山の理想的な心拍数は・・・・
220-年齢×75%です。
女性のsさんは今年80才ですから、105以上に成らないようなペースで登らないとバテテしまいます。
登山は本当に小さい一歩一歩の積み重ねですよね。
中盤の「源太落とし」 まで来ました。
このペースなら大丈夫!
小休止して、また小さな一歩の始まりです。
下りてくる人、追い越してゆく人が行き交うブナ立て尾根。
皆汗びっしょりです。
暫く登って「ダケカンバ」と言う場所へ着きました。・・・もうあと一息です。
平らな場所で周囲には太いダケカンバが何本も有ります。
「行動食でも食べますか?」
「それより、七倉荘で作ってもらったお弁当が、まだまだ沢山残っています。」
1つ二つ口にして出発です。
少し登ると、「ブルブルブル」・・・と発電機の音がします。
烏帽子小屋へ到着ですね。
皆様の表情は安堵でいっぱいでした。
小屋の前は岩ギキョウのお花畑で、誰もが目を奪われるような庭。
受付を済ませてから、烏帽子岳へ向けて出発です。
「烏帽子はどのくらい時間が掛りますか?」
「そうですね~、燕山荘から燕岳より少し時間が掛る程度ですかね。」
「稜線に居ますから、平行移動ですよ。」
精鍛なクルマユリ
道の両サイドには小さなコマクサが、まだまだ咲いていました。
烏帽子の山頂へは、縦鎖や横の鎖場を登って山頂です。
ご夫婦で本当に仲良さそうに記念のポーズです。
カシャリと撮影!
kさんの旦那様は事前に烏帽子岳を研究して来たそうです。
嬉しそうでした。
見える後方は常念山脈で、後方下には高瀬ダムがあります。
7時間近い行動でも山頂は嬉しい場所!
表情は見えなくても笑顔が想像出来ますね!
8月12日 (雨)
6時半頃に小屋から出発する。
小雨です。
昨日見えていた赤牛岳はすっかり雲に隠れています。
雨具を着ての出発は誰もが優鬱な気分!
三つ岳を越える頃には風もまじって来ました。
しかし、この稜線も穏やかな山容のため、歩きやすいので晴れなら気分最高です。
時折後を振り返ると、濡れねずみに成った皆様は、フードをしっかりかぶり下を向いてひたすら登っています。
雨のチングルマは水滴が付いていて、キラキラと光っていました。
野口五郎小屋へ到着した時は、幾分寒くなってきましたので、小屋の自炊室をお借りしてコーヒーを沸かして飲みました。
皆様は・・・
「温かくて美味しい!」
「ほっとしました。」
そんな一時の休憩で、使用させて頂いた自炊室は、
本当に登山者にとって有り難いものでした。
屋根に石を載せて風対策してます。
昔の姿を残している小屋ですね。
雨も弱くなったり、強くなったりする中、水晶小屋手前のヤセ尾根では気を遣う場所もありました。ヤセ尾根では風が少なかったので、後方の方へも声が伝わりやすかったので
良かったです。
東沢のコルから水晶小屋までの最後の登りが遠く感じました。
「あと30分くらいです。頑張りましょう!」
私達の前を大きなザックを背負って風雨の中、ひたすら歩いていた単独男性は、
時折霧に消えたりしながら、ほぼ同時期に水晶小屋へ到着しました。
しかし、男性は満員状態であることを知り、先の三俣山荘まで頑張って行くということでした。
中々、強い精神力と体力が有る方とお見受けしました。
私達は小屋で宿泊ですが、部屋に入って気持ちも体もリラックスムードになってしまい、時間的にも余裕はありましたが、水晶のピークハントは明日の朝実施に変更することにしました。
無理は禁物ですね!
狭い水晶小屋、満杯のお客様で・・・
スタッフの皆さんもてんやわんやで大忙しでした。
夕食は最近めずらしいカレーです。
カボチャやじゃがなど沢山の野菜が盛り込まれています。
私の仲間の間でも、カレーは美味しいのですが、後片付けが面倒なので敬遠されていました。
食欲をそそる香りのカレーは、美味しかったです。
「ふ~、ごちそう様でした!」・・・・と食卓に着いていた他の皆さんも大満足の様子です。
私の隣に泊まった沢屋さんのお二人連れは、釣りをメインに遡行されて来たということですが・・・100Lの大きなザック背負って沢を泳いだり、釣りしたりして来たということでした。
「人を見ても魚は逃げなかった。」という話を教えてくれました。
入れ食い状態だったのでしょうね!
ラジオの天気予を聞くと、明日の午後には雨はそこそこの状態ということです。
良い方向に向かっていることと期待して就寝でした。
8月13日 (雨)
朝食を済ませて、外を見ると雨と風です。
30分出発を遅らせて水晶岳へ向かうことにしました。
登山中も相変わらずの雨です。
しかし、風が少々納まっている状態でしたので、やはり天候は上向きなのか。
水晶岳ではバンザイも無しで証拠写真を撮り、すぐ往路を戻りました。
小屋へ戻っても相変わらずの雨でした。
小屋前で記念撮影を済ませて、出発です。
雨の登山道は滑りやすく、遠望も利きません。
晴れならば三俣蓮華や薬師なども見ることが出来ます。
「あっ、槍が見えてま~す。」
「燕岳と大天井も!いや~、素晴らしい展望ですね!」
「良かった・良かった!」
そんな言葉も出るほどの稜線登りですが・・・
全くガイド泣かせの残念な雨でした。
視界が効かない山道、手も冷たくなってしまってます。
しかし、登るしかありません。
そんな時に出くわす花達、少し気分も変わります。
これを見に来たのではありません。
此処からの景色を楽しむために急なブナ立て尾根を登り、雨のヤセ尾根を頑張って登って来たのです。
残念で仕方ありません。
行動食を1つ二つ食べて、すぐ下山です。
鷲場からの石ゴロの道は歩きにくくとも、ひたすら下ります。
そろそろ、小屋かなと思う頃でした。
「雨だから雷鳥が居るのじゃないですか。」とKさんの奥様が話した時、後方から・・・
「雷鳥だ!」
「あそこに居るよ~!」
「本当だ~。」
「1匹・2匹・・・6匹だ。」
大所帯の家族で母雷鳥も子供の面倒大変な位な数でした。
私も声も高くなり・・・
「良かったですね~!」
「雷鳥を見たのは何年振りだろうか。」
そんな思わぬ遭遇で一同感激・感動でした!
「雷鳥さん~元気に育ってくださ~い!」・・・そんな思いは私達全員が思ったことと思います。
そして、這い松の中に佇む三俣山荘で小休止となりました。
山荘では雨具の乾燥が出来る位のジェット型の暖房機が点燈され、濡れた衣類など乾かして、ゆっくり昼食タイムとなりました。
山荘の皆さん、ありがとうございました。 あのストーブのお蔭で心も体も温まりました。
30分位の温かい休憩で元気も取戻し、いざ黒部五郎小屋へ向けて出発です。
私達は此処まで裏銀座コースをずっと登って来ましたが、ここで裏銀座コースとはお別れで、黒部五郎小屋へ向かいます。ちなみに裏銀座コースは双六~西鎌尾根経由で槍ヶ岳へと続きます。この小屋から槍が真正面に見えるのですが、全く見えてませんでした。
そして今回は三俣蓮華へは登らずに迂回ルートを辿ります。
三俣連れ山頂からは360度の展望が楽しめますが、期待できないので残念でした。
昼食の暖を提供してくれた山荘へお別れです。
見えている2階では槍ヶ岳を見ながらコーヒーを頂くことが出来る場所です。
次回は山荘でのんびりと槍を眺めたいです。
雪渓を通過して、三俣蓮華岳北面に作られた迂回ルートを進みますが・・・
ルート沿いにはお花畑が幾つもあり、斜面全体に白や黄色の花が咲いて私達を楽しませてくれました。
五郎小屋へと下り始めたことには、時折青い空が見えることもあり、空を見上げては・・・
「青空で~す。」
「明日は期待できそうですね!」
・・・と、やはり全員で青空を望む声がしてました。
そして、今日の目的地である五郎小屋が見えて来ました。
奥深い山の草原に見える赤い屋根は嬉しいものです。
特に今日は雨の中でしたので、小屋の有り難さを痛感しました。
※ ここで前篇は一旦終了させて頂きます。
後半も頑張ってアップしますので宜しくお願いします。



















