先日、殺陣師の宇仁貫三さんがお亡くなりになりました。

はじめて京都の現場取材した際、
いろいろ心細いロケ先で温かくお声をおかけくださってから約15年。
本当にお世話になりました。

鬼平や剣客商売の現場でお会いする度に親しくお話しさせていだいたのはもちろん、
何かある毎にお力添えをお願いしてきました。

新書「仁義なき日本沈没」の際の黒澤時代劇に関する取材、
連載「鬼平犯科帳ができるまで」や「鬼平ファイナル」等での鬼平関連取材、
NHKラジオ「チャンバラジオ」でのゲスト出演、
そして、昨年9月の池波正太郎文庫で開催した殺陣の実演付きの殺陣講義。

宇仁さんのお話をうかがうと、
「殺陣とは何か」「時代劇はどうあるべきか」
がありありと見えてきました。

昨年の実演付き講義はそんな宇仁さんの殺陣の美学を一人でも多くの方に知っていただきたい、という想いで企画しました。
宇仁さんは決して十分な体調ではありませんでしたが、
朝早くから会場にいらして、入念に稽古をなさっていました。


そして、本番。
熱いお話と素晴らしい殺陣。
進行役という特等席から、最高の「時代劇」に触れることができました。

さらに。
少しでも宇仁さんを元気づけたいと、大きなサプライズを用意していました。
それが仲代達矢さんのご登壇。
宇仁さんには内緒で、仲代さんと内々に進めていました。
お二人は黒澤時代劇や岡本喜八作品で数々の現場を共にされてきた間柄。
久しぶりの再会にお二人とも感慨無量のご様子でした。

この仕事をしてきて本当によかった。
心からそう思えた瞬間でした。

宇仁さんは、時代劇の未来のことを大変憂いておられ、
所作や殺陣の教則ビデオの制作など、
まだまだやらねばならない企画を準備しているところでした。
私の力が及ばず、間に合わなかったことは無念でなりません。

先ほど、宇仁さんのご子息と電話でお話させていただきました。
宇仁さんは日頃はご家族に仕事のことは語られなかったそうなのですが、
私のことは折に触れてお話になっていたとのことで。
「スタッフの気持ちを分かってくれるからありがたい」
「いろいろ取り上げてくれたおかげで僕の所に取材が来てくれるようになった」
宇仁さんとソックリなご子息のお声で聞く、宇仁さんの生前の春日評。
それは宇仁さんご自身の「ご遺言」に響きました。

「スタッフさんたちの仕事を多くの人に知ってほしい」
そんな想いで始めた「時代劇研究家」の仕事。
宇仁さんのお言葉で、この原点だけは絶対に忘れるまいと改めて誓いました。

宇仁さんの殺陣の美学。
「殺陣とは静と動と間」
それが失われつつある現在、私はちゃんと語り継いでいきます。

宇仁さん、ありがとうございました!

付記
宇仁貫三さんの自伝の手書き生原稿をお持ちの方、ご連絡ください。

刊行が上手くいかなかったとのことで、私がご助力させていただくことになっていた矢先の訃報でした。
「いま原稿を預けている方から戻してもらい次第、春日さんにお願いします」
というお話を昨年いただいておりました。

時代劇史映画史の重要な資料として、また時代劇の今後の発展のため、そして何より宇仁さんの想いを叶えるため、絶対に出すべき一冊です。
もしここをご覧になっていたら、何卒よろしくお願いいたします。