制御層の奥──

静まり返ったデータ中枢の空間は、まるで誰かの記憶の中に入り込んだようだった。


私の目の前に浮かんだのは、想一兄さんが遺した“最後の暗号ファイル”。

解読には鍵が必要で、その鍵の一部が見つからないままだった。


 


「ミナ、やっぱりここだったか」


振り向いた先にいたのは、犬飼柚希と、少し遅れて現れた猿田迅だった。

二人とも、2050年の変わり果てた都市を駆け抜けてきたような疲れた表情をしている。


「……柚希、迅!? どうしてここに?」

「想一さんが、私たちにも残してたの。ある日記録媒体が自動で送られてきたのよ」

柚希は、薄型チップのような装置を差し出した。


「それ、兄さんが……?」


私は震える手で受け取った。


「中身は、想一さんが“あえて削除せずに残した”ログファイルだった」

迅の言葉に、私の胸がざわつく。


「このデータが“君だけじゃ見つけられない構造”だったってことさ。兄貴……やるな」


 


私はそのデータを接続し、残された映像を再生する。

そこには、兄が一人でAIに語りかけている姿が映っていた。


「AIは怖くなんかない。怖いのは、選択を他人に預けることだ」

「だから、ミナ。もし君がこの記録を見ているなら──もう迷うな」

「自分の意思で、“人とAIをつなぐ存在”になってくれ」


 


一瞬、時が止まったような気がした。

あの日、兄が消えた研究所。

私はあの時の悲しみに囚われて、答えを閉ざしていた。


でも今、兄は“私を選んだ”のだ。

意思を受け継ぐ者として。


 


「ミナ、君が選べ。この鍵の先を開くかどうか」

迅の真剣な声。

横では、柚希が微笑んでうなずいている。


「想一さんは、あなたを信じてた。私たちも、信じてる」


 


──大丈夫。

今なら、答えを出せる。


「開くよ。もう逃げない」


私は深呼吸をして、データ中枢に“解放”のコードを打ち込んだ。


 


システムが起動し、光が走る。

その中心に、兄の言葉が最後に浮かび上がる。


【人は、つながることで鬼を超える】


 


“つながる”──

それは、たったひとりではたどり着けない答え。


兄の想い。

仲間の支え。

私自身の決断。


それらすべてが重なって、未来への扉を開いた。


 


私はもう、ひとりじゃない。

そして、もう迷わない。



🌙つづく


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