最終章:おかえりを、あなたに


2040年、夏の始まり。

湿った風が夜の都市に吹き抜けるなか、

変わらないようでいて、少しだけ変わった人たちがいた。


帰ってこないと決まったわけじゃない。

けれど「帰ってくる」とも限らない。


それでも彼らは、“待つ”のではなく、“迎える”ためにそこにいた。



🍑 桃谷太陽


研究所のドアが開くたびに、

彼はふと振り返ってしまう自分に気づいていた。


そんな自分を、以前は情けなく思っていた。

だが今は違う。


「カグヤ、もし君が戻ってきたら、最初に聞いてくれ。

“まだ空を見てるの?”って。

そのときは胸を張って答えるよ。“ああ、ずっと”って」


白衣のポケットには、いつもと変わらず彼女のデータペンダントが入っていた。



🐒 猿田迅


署内の掲示板。

新人刑事が「猿田さんって、あの柚希先輩と組んでた人ですよね」と言った。


迅は、少し驚いた顔で笑った。


「ああ。あいつ、俺の婚約者だったんだよ……って、まだ言っていいかな?」


未来は予測できない。

けれど、自分の“中の未来”には、彼女の笑顔がある。


「お前が“帰ってきたい”って思えるような俺になる。

そのときはちゃんと、“おかえり”って言わせろよ」


心の中で、小さく声を送った。



🐦 雉川レオ


研究棟の屋上で、彼はひとり空を仰いでいた。

その隣には、すでに二脚の椅子が並んでいる。


一つは自分用、もう一つは、ミナのために。


「今日はな、ログに面白い現象があったんだ。

君なら絶対、笑うか悔しがるかしてたよな」


まるでそこにいるかのように、語りかける日々。

それでも彼は、確かに前へと進んでいた。


「だから――戻ってきたときに驚くなよ。

お前の帰る場所、ちゃんと更新されてるから」



“ただいま”という言葉には、

“信じてくれてありがとう”の意味がある。


“おかえり”という言葉には、

“君がいてくれてよかった”の願いがある。



そしてその夜、

一筋の光が、夜空を切り裂いた。


空の彼方に一瞬、彼女たちの笑顔が見えた気がしたのは――

ただの幻想だったのかもしれない。


けれど彼らは信じていた。

あの声が、あのぬくもりが、

いつか「おかえり」と返せる日がくると。



終―