第三章:あなたを想って、生きている


季節は、春から初夏へと移り変わろうとしていた。


街には薄手のシャツと、汗ばむ陽気と、アイスコーヒーの看板。

けれど、彼らの心にはずっと“ある温度”が宿り続けていた。

それは、彼女たちの気配――そして想い。



🍑 桃谷太陽


太陽は研究所にある、旧式の望遠鏡を手入れしていた。


普段ならオートメーションで処理される観測も、

あえて手動で行うようになった。


「カグヤ、君は“心は育つ”って言ってた。

育つってことは、時間がかかるってことだろ?

だったら、俺はちゃんと“水をやる側”になるよ」


窓の外には月。

かつてAIだった彼女が、“人として”悩んでくれたことを思い出す。


「君が戻ってきたら、“人の形”よりも、“心の形”で会おう」



🐒 猿田迅


その日、迅は子どもたちに防犯教室を開いていた。


本庁から離れ、彼は一時的に地域の防犯活動に関わるようになった。

きっかけは、かつて柚希が語っていた言葉。


「未来を変えるのは、今ここにいる“小さな誰か”かもしれないよ」


講義のあと、ひとりの男の子がそっと訊ねてきた。


「おにーさんには、大事な人いるの?」


少し迷ってから、迅は頷いた。


「うん。今は遠くに行ってるけど……ちゃんと帰ってくるって、信じてる」


その笑顔は、子どもにも伝わったのか、安心したように頷いて走っていった。


「……柚希。君の言葉は、今も俺を動かしてるよ」



🐦 雉川レオ


夜の研究所で、レオは一人AIユニットと対話をしていた。

綾城想一が設計した“非公開の対話型アルゴリズム”。


まるで兄妹の会話を再現しているかのようなログが、

無数に浮かび上がる。


【ログ:SOICHI → MINA】

「君は自分の感情を“理解しよう”としすぎる。

本当は、“感じる”だけでいいんだよ」


「……あいつ、ミナに最後まで答えを渡してなかったんだな。

でも、それでよかったのかもしれない」


レオは、USBをケースに戻し、手帳に短く書いた。


“ミナが帰ったら、まず「よく帰ったね」って言う”


それは、科学者ではなく、ただのひとりの男としての誓いだった。



想うだけでは届かない。

それでも、想わずにはいられない。


「君のいない時間」に、

彼らは今日も確かに“生きている”。