第一章:三人の決意 ―待つこと、それは強さ―
2040年、春。
3人の女性が旅立ってから、一週間が過ぎた。
誰に話しても信じてもらえないだろう。
「2040年から2025年へ旅立った」と言っても、資料も証拠も残されていない。
だが、彼女たちは確かに“そこにいた”――そして“今、いない”。
🍑 桃谷太陽
天文研究所の観測ルーム。
太陽は毎晩、カグヤが調整していた月面カメラに触れていた。
「君の残した座標、間違ってない。だけど、そこには誰もいない」
彼は知っている。
AI少女だったカグヤが“ただのプログラム”ではなかったこと。
彼女は、人の心に寄り添いながら、自分自身の“心”を求めていた。
「カグヤ。俺、今度こそちゃんと伝えたいんだ。
“君がどんな存在でも、俺にとっては特別だ”ってことを」
未来の技術ではどうにもできない“感情”を、
太陽は自分の言葉で、待ち続けることで証明しようとしていた。
🐒 猿田迅
警視庁 第四課。
迅は報告書を片づける手を止めて、ふとペンを置いた。
柚希の机の上には、まだ未送信の手紙が残されている。
それは、彼女が旅立つ直前まで悩んでいた証。
「告白の返事なんて、いらないって思ってた。
でも、あいつが戻ってきたら、ちゃんと聞きたい。
あいつが本当に“笑って”くれる未来があるのかって」
迅は机の下から小さな防犯カメラ映像を取り出した。
そこには、旅立ちの数日前、柚希が職場を後にする姿が記録されていた。
「あいつの背中が、あんなに遠く見えたの、初めてだった」
でももう逃げない。
彼は、待ち続けるという選択を“正義”と信じていた。
🐦 雉川レオ
研究棟の地下。
雉川レオは、綾城想一の残した記録ファイルを一つ一つ、手作業で解読していた。
その記録の中に、想一の“最期の日”のログがあった。
【記録:2035.10.12】
「“心をデータ化する”って……もしかして、間違いだったのかもしれない」
「でも、ミナには何も言わずに済むようにしてやりたい」
「レオ、お前には頼ってばかりだったな……ありがとう」
レオは画面を閉じて、そっとつぶやいた。
「……ミナ。君の兄貴は、自分の正しさを疑う勇気を持ってた。
俺は、君が帰ってきたとき、それをちゃんと伝える。
“おかえり”と一緒に、全部、言葉で伝えるよ」
⸻
3人の男たちは、それぞれに“待つこと”を選んでいた。
逃げず、誤魔化さず、
たとえ答えがいつ来るかわからなくても、
「信じる」という一歩を踏み出していた。
それが、彼女たちが戻ってくる未来に向けた、
彼らの“旅”の始まりだった。
