第七章:未来に、ただいまを言うために
旅の最終日。
東京駅の丸の内口には、春の風が吹いていた。
3人は言葉少なに改札を抜け、かつて降り立ったあの交差点に立っていた。
「……もう、帰るんだね」
カグヤがぽつりとつぶやく。
銀髪が、やわらかく揺れる。
「なんだか、もっと色んなこと、見てみたかった気もする」
「でも、全部を知ろうとしたら、今のこの気持ちも薄れてしまうかもしれない」
ミナが、懐かしいペンダントを胸元で握りしめながら言った。
USBも、記録も、そして兄の言葉も――
もうすべて“答え”ではなく、“自分の一部”になった。
「帰ろう。わたしたちの未来へ」
柚希が、まっすぐに言った。
もう迷いはなかった。
猿田迅と、きちんと向き合いたい。未来を恐れずに。
「太陽くんに、ちゃんと“会いたい”って言える自分になれた気がする」
カグヤが小さく笑う。
「レオさんに、“わたし自身の言葉”で話したいと思えるようになった」
ミナも、力強く頷いた。
それぞれの「好き」が、名前を持ち、形を持ち、行き先を持ち始めていた。
構内の一角。
カグヤが取り出した小さな装置が、再び淡い光を放ち始める。
「時空安定フィールド、再確立。干渉窓、起動準備完了」
デバイスの声が淡々と告げる。
交差点のスクリーンに、偶然映し出された「未来のAI特集」。
その中に、ほんの一瞬だけ――“2040年の東京”が映った気がした。
「……じゃあ、行こうか」
「うん」
「ただいま、って言えるように」
風が、桜の花びらを運ぶ。
交差点の信号が青に変わる。
3人は、再び“時空の光”の中へと歩き出した。
その背中には、未来を恐れない強さと、
この時代に触れて得た“やさしさ”が静かに宿っていた。
そして──
再び未来が、彼女たちを待っていた。
ー終章ー
