第四章:それでも、好きだから
その夜、宿のベッドに横たわったまま、柚希はスマホを見つめていた。
正確には、“2040年仕様”の極小通信デバイスを模した2025年のスマホ。
もちろん未来との通信は遮断されている。
それでも彼女は、画面のメモアプリに、こっそり言葉を綴っていた。
「迅。あなたが告白してくれたあの日のこと、ちゃんと覚えてるよ。
だけど……私はまだ、自分の気持ちに“正直”になれてない。」
画面を消すと、窓の外から夜風が吹き込んできた。
月が、ぼんやりと滲んで見える。
「……こんな風に、恋に悩む日がくるなんてね」
ふと、隣のベッドでうつ伏せになっていたミナが顔を上げた。
「……なに、柚希でも“好き”で悩むことあるんだ」
「うるさい。そっちこそ、さっき兄さんの動画、泣きながら見てたでしょ」
「……あれは……ホコリが入っただけ」
そのやり取りに、カグヤがくすっと笑った。
「みんな、感情って不器用にできてるんだね。
だけど、だからこそ――愛おしい」
カグヤの言葉は、いつも少し詩的だった。
でも、心の奥にすっと入ってくる。
「……私、太陽くんに会いたい。
彼がこの時代にいた“記録”は何もないけど、きっと、どこかで生きてる気がするの」
「探すの?」
「うん。記憶のためじゃない。“今の私”のために、ちゃんと会いたい」
柚希も小さく頷いた。
「……私も。戻ったら、ちゃんと“好き”って言えるようになりたい。
たとえ答えがわからなくても――それでも、好きだから」
ミナが顔を横に向ける。
「なんか……いいね。みんなそれぞれ、誰かのこと思ってるんだ」
静かな沈黙が落ちた。
けれど、それは重たくも苦しくもなかった。
やわらかく、あたたかく、胸の奥に小さな灯がともるような時間だった。
その夜、三人は同じ月を見上げながら、
それぞれの“好き”に、初めて正直になろうとしていた。
