🌙【六日目】静かな変化


週末の夜。

駅前のにぎわいも落ち着き、風が少しひんやりと感じられる。

綾城ミナは、雉川レオと久しぶりにゆっくり夕食をとっていた。


テレビの音。

グラスが触れ合う軽やかな音。

ふたりの間に流れる沈黙さえ、やさしく感じられる夜だった。


ぽつりと


「昔より、人と話すのが少し楽になったかも」


ミナがふとつぶやいた。

何かを考えていたわけではない。

けれど、自然と心からこぼれ落ちた言葉だった。


レオは箸を止めて、ミナの顔をじっと見た。


「そうなんだ? なんでかな?」


ミナは、ゆっくりと笑った。


「たぶん、自分の心に余裕ができたんだと思う。

前は“相手の気持ちをわかりたい”って、ずっと焦ってた。

でも今は、“わからなくても、寄り添ってみよう”って思えるようになったの」


手のひらのあたたかさ


その言葉に、レオは何も言わず、

そっとミナの手を握った。


言葉はいらなかった。

そのあたたかさが、何よりも彼の“気持ち”を語っていた。


ミナの胸の奥に、

穏やかな波紋が広がっていく。



静かに動いたもの


たった数日前まで、心の声が聞こえていた。

あのざわめき。あの苦しみ。あの涙。


けれど今、彼女の周りの世界は静かで――

それでも、確かに“変わっていた”。


「変わったのは世界じゃなくて、私自身だったんだ」


心の変化は、静かに


それは大きな変化ではない。

誰かに気づかれるような劇的なことでもない。


でも、自分の中で「何かが動いた」と確信できる。

そんな静かな変化だった。


ミナはそっとレオに微笑みかけた。


「ありがとう。ずっとそばにいてくれて」


レオは、静かにうなずいた。


それだけで、ミナの心はふわりと軽くなった。




次章は「🌸【七日目】わたしの声」へと続きます。