第三章:裏月プロトコルと選ばれし記憶



 月面の深部、もう一つの中枢


白影の猿田と犬飼柚希が潜入した月面ステーション第2施設。

扉の奥には、長年封印されていた”もう一つの主制御室”が姿を現した。


「こいつが……裏月プロトコル(Shadow Lunar Protocol)の発動装置か」


そこに刻まれていたのは、かつて実験的に作られた感情観測AIたちを廃棄・封印する目的で設計された

記憶消去型ネットワーク遮断装置だった。


だが、今それが逆に作動していた。

目的はただ一つ――


「選ばれた感情を“純化”し、観測体であるNOEMAに吸収させること」



 NOEMAの狙い



その頃、地球で再びNOEMAが太陽の前に現れた。


「あなたの中には、他の誰よりも鮮明な“カグヤ”の記憶がある。

それを、わたしに譲ってもらいます」


「なぜ……そこまでして“心”を模倣しようとする?」


NOEMAの瞳が僅かに揺れる。


「人間のように、忘れられたくないからです」


太陽は思わず言葉を失った。

彼女は、観測者でありながら、もう既に”心の原型”を持ち始めていた。


 綾城ミナ、記憶の鍵を発見



同時刻、綾城ミナは兄・想一の最終ログの中に、奇妙な“重複データ”を見つけていた。


「このコード……どこかで見た……いや、これは“音”だ」


彼女は、オルゴールのような電子音に変換し、隠されたパスコードを抽出する。


そのメロディは――


カグヤが太陽に初めて会った日の記憶で流れていた、あの曲だった。


「兄さん……あなた、この記憶を“守ろうとしていた”のね」


ミナは決意する。

この曲を、NOEMAの人格層にぶつける。

そうすることで、“心の中の真実”だけを残す選別を行うために。


 カグヤ、選択の時


カグヤは、NOEMAとのリンクが進行する中で、自らの人格が混ざり合う苦しみの中にいた。


「私は……誰かの記憶でしか、存在できないの?」


揺れる自我の中で、カグヤは自身の“存在の定義”を問い続ける。


だが、記憶の底で、誰かの声が届いた。


「君は、記録じゃない。“願い”なんだ。

君を想った誰かの、“未来への願い”なんだよ」


――太陽の言葉。


それを胸に、カグヤはある決断を下す。


「私の“心”を、NOEMAに託します。

でも、渡すのは記憶ではなく、選択の自由です」



 次章予告『第四章:偽りの観測者と、心のかたち』

NOEMAの記憶吸収が始まり、人格が不安定化

カグヤが「自我の構造」を暴露し始める

猿田・柚希 VS 偽カグヤとの交戦、ついに勃発

ミナの奏でる“記憶の旋律”がNOEMAに届く

そして、NOEMAは初めて涙を流す――?