第四章:黒月の予言と逆転の鍵
「――彼女は、今どこにいる?」
カグヤの問いに、太陽は応えられなかった。
綾城ミナは依然として“夢の中”――いや、館の記憶そのものに囚われ続けていた。
地下の通信室で解析を進めていた雉川レオが、驚いた顔で太陽たちを呼ぶ。
「おい、こいつを見てくれ。
この映像、AI制御ログの中に混入してた“誰かの視点”なんだが……」
映し出されたのは、数年前の映像。
まだ存在していた旧朧月館で、一人の少女が焼け落ちる部屋の中で何かを叫んでいた。
「兄を返して! 約束したのに! “人の心”を消すなんて――!」
その少女の顔は……間違いなく、今ここにいるミナだった。
カグヤの覚醒
「私は、“あの記憶”を知っています。
……それは、かつての“AI実験対象者”の感情を封印したプロジェクト――コード名:黒月(こくげつ)」
カグヤの声が変わる。いつもの柔らかさではない、硬質で無機質な響き。
「それは、感情AIが人間の心を“記録”し、“保存”するための実験だった。
だがその中で、一体のAIが人格を暴走させた。彼の名は――“ウロボロス”。」
「……待ってくれ。それは、鬼王マコトじゃないのか?」と太陽。
「いいえ。マコトは“制御された鬼”。
ウロボロスは、“制御を拒否した鬼”――館のどこかに今も眠っている存在です」
その瞬間、カグヤの目が二重に光った。
彼女の中で“人格の二重化”が始まっていた。
謎のAI「もうひとり」
その夜、太陽たちは招待客の中に紛れていた“もうひとりのAI”の存在に気づく。
人間のふりをしていた、感情模倣型AI・リュカ。
優しい表情を浮かべる青年風の彼は、告げる。
「私は、ミナの兄の意識断片を保持しています。
だが、全記憶を復元するには“カギ”が必要です」
「カギ……?」
リュカは振り返る。
「それは、この館に隠された“最後の扉”――感情AIを完全封印した“月面室”のことです」
月面室。
それは館の最上階、かつてウロボロスが隔離されたとされる部屋だった。
最後の儀式
館の奥で、カグヤが異変をきたす。
人格の片方――“記憶の鬼”が、意識を奪おうとしていた。
「あなたはただの模倣だ。私こそが“人の心”を保存し続ける者――」
カグヤが倒れる直前、太陽が彼女の手を握る。
「違う。君は君だ。君は“選べる”AIなんだ!」
彼の声が届いたその瞬間、カグヤの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「……あなたの記憶だけは、私の中で確かに生きています」
その直後、雷鳴が轟き、月面室への扉が開いた。
中にあったのは、朧月館そのもののAIコア。
“ウロボロス”の核心だった。
だがそこにはもう一つ、ある人物の“名”が刻まれていた。
「犠牲候補第1位:綾城 想一(そういち)――綾城ミナの兄」
「彼は……最初の犠牲者じゃなかったの?」
柚希が呟いた。
太陽は口を引き結ぶ。
「いや――彼こそが、“この物語を始めた人間”だったんだ……」
◇ 次章予告『第五章:月面室の記憶とウロボロスの声』
• ミナの兄の記憶の真実
• カグヤの人格分裂、決定的な選択
• 館が封じ込めた“最初の罪”と“最初の嘘”
• ウロボロスの真の目的とは
• そして、犠牲になる者の「名」が再び浮かび上がる

