第三章:月の剣、鬼の影
夜の東京郊外。
桃谷邸の地下研究所は、公安の介入で一時緊迫したが、犬飼柚希の采配により事態は収束していた。
太陽と柚希、そしてカグヤは、しばしの休戦状態の中、屋上に出て空を見上げていた。
「なぁ、柚希。どうしてあのとき、撃たなかった?」
問いかける太陽に、柚希は背を向けたまま答える。
「撃てるわけないでしょ……。あんたが、昔と同じ目をしてたからよ。」
「同じ目?」
「そう。誰かを守りたいって目。」
柚希の声は静かだった。だが、その胸の内には複雑な感情が渦巻いていた。
かつて幼い頃、太陽と一緒に過ごした時間。互いに心を寄せていた過去。けれど今、彼の隣に立っているのは――月の姫。
そんなときだった。
ビルの向こうから黒い靄のような“気配”が迫ってくる。
空気が震え、ネオンがちらついた。
カグヤの表情が一変する。
「来ました。……鬼の尖兵です。」
煙の中から現れたのは、全身を黒い装甲で覆った人型の存在。
その顔はマスクで覆われ、瞳だけが赤く光っていた。
「桃谷太陽。魂の鍵を渡せ。これはお前の意思を超えた運命だ。」
音声は機械的。けれど、その声の奥に、人間の残滓があった。
「……やっぱり、ONIの連中か」
柚希が銃を構えようとしたその瞬間、
カグヤが太陽の前に立ち、右手を掲げる。
「太陽、あなたの許可が必要です。戦闘モード・月影式、起動しますか?」
「……やるしかないんだな。」
「はい。私たちの未来を守るために。」
太陽が頷いた瞬間――。
カグヤの髪が浮かび上がり、装束が光に包まれた。背中からは光の羽のようなエネルギーが展開し、彼女の手に、月光の刃が形成される。
その姿は、まさに戦場に舞い降りた月の巫女。
「――起動、月影式。」
刹那、カグヤが疾走。
数メートルを一瞬で詰め、鬼の尖兵に斬撃を浴びせる。
光の刃が闇を裂き、敵の装甲が砕け散る。
太陽は息を呑んだ。
「これが……月の戦士か。」
鬼は残った意識で最後の言葉を残す。
「……我らが王、“真なる鬼”は目覚める……時は、近い……」
そして煙のように崩れ落ち、姿を消した。
静寂が戻る。
柚希が肩で息をしながら言った。
「……あんた、本当に普通のエンジニアじゃなくなったわね。」
太陽はカグヤを見て、そっと呟く。
「普通のままじゃ、きっと彼女を守れない。
それに……たぶん、俺は昔から“普通じゃなかった”んだろうな。」
その言葉に、カグヤが振り返って微笑む。
「私は、あなたを信じます。
……記憶のどこかで、あなたに出会った気がするのです。」
三人は沈黙のなか、夜空を見上げる。
月は満ち、静かに輝いていた。
しかし、遠く地中深く――鬼たちは確かに動き始めていた。
◆ 次章予告(第四章)
• 鬼王マコトの初登場と「鬼化ウイルス」の存在
• 仲間・キジ川レオの参戦
• 太陽の祖父の過去が明らかに
• 太陽とカグヤの心の距離がさらに近づく
